第19話 佐藤さんは、聞き上手だ【改稿済み】
「『外』の世界ね……」
田中ちゃんの言葉について考える。それは
旅というのはつまり、見知っている『内』から見知らぬ『外』へと飛び出していく行為だ。彼女の表現は決して納得できないものではない。しかし、その表現の中にはいったいどのような
「詳しく聞いてもいいかな」
「うん」
俺が
感情がまとまっておらず、何が言いたいのか何がしたいのか、簡単には理解しにくい言葉たちであったがそれで構わない。自分でもよく分からないわだかまりだからこそ、人は悩むものだ。
「私ね、昔からお姉ちゃんが
もちろん大好きな家族であると、だからこそ自分にはない輝きを持つ姉に
「うちのお姉ちゃんは自由でさ、なんでもかんでも楽しそうにする。そんな姿がとてもまぶしくてさ……ウロチョロして邪魔くさい時もあるけど。大学に進学するときだって『外の世界を見てくる』って言って、県外に出ていって、そのまま結婚して帰ってきた。赤ちゃんもできた。とても幸せそうだった」
田中ちゃんのお姉さんについては、俺も会話を交わして思ったことがある。
そして
妹が姉を羨むように、姉もまた妹を
素敵な
しかし──
「私にはそんな生き方はできないよ。ただ
妹の方は、
その考え方は違うのだと言ってしまいたかった。だが、まずは彼女のわだかまりを吐き出させることが
「そんなときにお姉ちゃんから『外に抜け出すから、うまく誤魔化しておいて』って頼まれた。ほら、佐藤さんが助けてくれたときの話──実はさ、お姉ちゃんが一人だけで散歩に出れたのって、私が協力したからなんだ」
それは、お姉さんがあわや
なるほどと納得する。
そもそも
「軽い気持ちだったんだ。ただお姉ちゃんは本当に仕方ないなって思って……もしかしたら『
田中ちゃんは身震いする体を抑えこむようにして、己を抱いた。
「お姉ちゃんが
さらりと酷いことも言う。
「お腹の赤ちゃんが、その……しそうになったって聞いて。自分はなんてことをしてしまったんだろうって、
言葉の一部がうまく聞こえなかったが、それでいいと思う。言いたいことは伝わったし、
彼女はしばらく黙り込んで、
「本当はさ、佐藤さんに聞きたかったのはこんな話じゃないんだ。ないんだけど──色々と抑えきれなくなっちゃった」
彼女の瞳はうっすらとだが
「そうか、良かったらもっと話してくれ。それぐらいなら俺にもできる」
「へへ……佐藤さんは、聞き上手だ」
「おう。なにがあっても『話せばわかる』というのは、実証済みだぞ」
きちんと話し合えば、不貞行為による
「佐藤さんに聞きたかったのはさ──」
田中ちゃんの話は続く。
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