第73話 どこか。ここじゃない、どこか
旅人の提案をグルグルと考えながら、俺は裏山の
どこか。ここじゃない、どこか──
何だろう。どうしてこんなにも
理由は簡単だ。
見てみたいのだ、どうしようもなく。
まだ見ぬ景色、まだ見ぬ出会い、まだ見ぬ世界。
およそ
最初は、故郷に自分の居場所を見出せないから
現状に不満なんてない。
愛すべき家族に、尊敬すべき仲間たち。
まさか、これだけ恵まれた境遇にあるのに、それらを不満だと抜かしたらバチがあたる。
だからこんなにも心迷っているというのは、単なる天秤の問題だった。
俺は『故郷』をとるのか、それとも『旅』をとるのか。
どちらが俺にとって魅力的なのか。
そんな単純な問いであった。
本来であれば、もっと色々と考慮することはあって
俺は『旅』に出ることを決めた。
不安はある。
もう二度と故郷へと戻ってこれないと脅されたのなら、二の足を踏むのは否めない。しかし、そこは楽観することにした。そも、二度と故郷へと戻れないような状況に
そして向かったのは馴染みの中で最も仲の良い、鈴木の家である。
彼を呼び寄せて一方的に、旅に出ること、そして自分がいなくなったらそれを両親に伝えてほしいと頼み込む。さすがに両親に面と向かって言えるだけの
鈴木は俺の言葉を冗談だと
とはいえ、冗談だと捉えられた言葉が正確に両親に伝わるかは怪しかった。なので手紙を
それを鈴木へと手渡して、その場を後にした。
それから、大したこともない旅の準備を整えて、俺は夜を待った。
両親は普段から生まれたばかりの弟の面倒にてんやわんやであり、俺が弟の世話を
多大な感謝と、そして申し訳なさを感じた。
草木も寝静まったと思える頃、俺は自宅の玄関を出る。
晴れた、月のよく見える夜だった。
月が出ているからには足元に
きっとぼんやりとした顔をして俺の来訪を待っているだろうと思い、仕方ないので少しだけ足を早めてやることにした。
そして故郷の住宅地を抜けて、裏山の
一人の少年と、そして一人の少女だ。
少年の方は鈴木である。
眠たそうな顔をして、さも気乗りがしないと言った顔をしていた。そしてそれとは対照的に、真面目くさった顔をして俺を待ち構えていたのは少女の方だ。
彼女は故郷における馴染みの一人で、活発な子であった。
馴染みの中で一番のお
彼女は名前を高橋といった。
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