第51話 そろそろ帰ろ、お漏らししちゃう
電車に揺られ京都駅に到着すると、脇目も振らずに宿へと直行する。
いつもであれば京都駅舎のその特徴的な建築を見物しつつ、辺りを散策するのが常であるのだが、今回ばかりは眠たさが勝つ。
京都での宿はすでに予約を取っている。
当初はホステルにでも宿泊しようと思っていたが、ウィークリープランのある個室ホテルに運よく空室が見つかり、即座に確保した。長崎でういた宿泊予算をここに
チェックインを済ませると、そのままベットへと倒れこんだ。
どれぐらいで眠りに落ちたのかはよく分からない。おそらく気絶するようにパタリと
起きてみると
「いかん、今度は目が冴えてしまった」
そのまま朝まで熟睡しようと思ったのだが、中々に上手くはいかない。仕方がないので外へと出る。
京都の街は依然として
しかし、それもまた
賑わいのある観光地というのもそれはそれで面白いが、むしろ京都の景観からして
「夜の京都散策というのも面白いかもしれん」
京都といえば今まで幾度となく訪れた地であるし、ある程度の名物は見物済みである。しかしそのどれもこれもが、昼間の姿であった。ここらで一つ、一味違った古都の姿を拝んでみるのもいいかもしれないと思い立つ。
「しかし、夜となると行ける範囲も狭まってくるか、ちと調べるかね──」
携帯端末を用いて「夜、京都」と検索する。
さすがは日本が
言わずと知れた、稲荷神社の総本社である。
千本鳥居などが外国にも有名だ。
そこは通年であまねく多くに開いているらしく、夜でもとくに入場制限などもないようだ。それに福岡、広島と神社の総本社を巡ってきたこともあり、流れとしてもおかしなことはない。
いつまでもボーッとしているのもなんなので、ひとまずにはそこへと向かうことにする。
公共交通機関を駆使して稲荷駅へ。
駅から徒歩で、すぐさまに到着する。
「いや夜、こわっ!」
しばらくの間、散策をした後の感想がそれだった。
参拝を済ませて、千本鳥居に導かれるように登山している最中のつぶやきである。伏見稲荷大社は山そのものが神域であるから、散策すると山中へと踏み入ってしまう。そして夜間登山というのは、特別な危険だって存在するのだ。これに恐怖しないわけがない。
とはいえ確かに。キチンと外灯が設置されているし、登山道はしっかりと整地された参道だ。観光客もチラホラと散見されるので危機迫るような恐怖は感じられないが、そも、夜中の神社仏閣という条件だけで肝試しスポットとして通用する
複数人でいるならともかく、個人となると勇気がいる。
神様だって、そんな夜中に訪ねてくるような無礼者、
俺が神様ならそうする。当然する。
そんなこんな考えながら、足を進める。
すると、途中で京都の街を広く眺望できる場所へと到着した。
どこの街でもそうだが、夜景というのはとても美しく思える。京の都とてそれは変わることはない。
東京のような巨大な建造物なぞは確かに見当たらないが、確かに大都市と言えるべき姿がそこにはあった。
「そろそろ帰ろ、お漏らししちゃう」
夜景を見たことによって、ひとまずの成果をあげたと思い、撤退することにする。これ以上、ここに留まり続けるだけの胆力がないのだ。
下山して一息つく。
そして、これからはどうしたものかと考え込む。
次の動向は鳥居をくぐり抜けながらにでも考えるつもりだったが、恐怖でそれどころではなかったのだ。
とにかく人通りの多いところへと向かいたい。
そんな気持ちを持って移動する。電車にのって街へと戻り、人の温もりを求めてフラフラと──
そして到達したのは夜の街だった。
この時間になって、いまだに人の往来があるところとなると、必然的にそうなるのだ。
京都の飲み屋街というのは、随分と味のある雰囲気を持っていた。
どこかお上品というか、地方都市のそれにあるようなド派手なチープ感があまり感じられないのだ。店先に飾られた看板や
そのように気後れを感じていたのだが、往来を観察してみると確かにへべれけている。なので、嬉しくなる。人間酔えば上品も下品もなく皆一緒なのだ。
そして自分もそんな酔っ払いの一員として混ざりたい気持ちがあるが、未成年の身だ。おおぴっらに飲酒をするわけにはいかない。一人旅をするからには、清く正しく、マナーを守りつつだ。
そうでないと家族に迷惑をかけることになる。
自らの身の上からして、それだけは絶対に勘弁したいところだった。
ふと携帯電話に着信が入る。
高橋からだった。
思えば、俺が旅立ってから──つまりは高橋と鈴木のちょめちょめを目撃してからより、初めて向こうからの連絡がきたのだ。なので、ちょっとだけ嬉しく思いながらに携帯電話へと手を伸ばす。
しかし、いや待て。
もしかしたら緊急事態が発生した可能性もある。何せこんな時間なのだ。
そんな緊張感をもって通話を押した。
『あ、佐藤くん。ごめん寝てたかな?』
「いや大丈夫」
『ちょっと話がしたくなって。あ、でもその前に──誕生日おめでとう。これでもう二十歳になったね』
「あれ?」
彼女から、自分が既に成人していることを告げられた。
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