第99話 みんなで恋だ愛だと騒いだ日⑧
おい起きろ、と。
そのような言葉を受けて目を覚ます。
眼前には夜空があった。
そうは言っても、満天の星空なんて大層なものではない。なにせ大都会東京の空だ。星なんて
「んあ……鈴木か。生きてるかお前、大丈夫か?」
「大丈夫なものか。思いきり殴りやがって──そしてなんでお前も倒れてるんだ」
「疲れてんだよ」
左隣にて俺と同じように大の字になって空を仰ぎ見ている親友に気づき、そんなやりとりをする。不思議なことに鈴木を殴ってからの記憶がない。しかし現状を
「それで、ご要望どおりにしてやったわけだが、これでスッキリしたか?」
「そんなわけあるか、いまだに混乱している。メチャクチャだよ、もう。アレコレと
悪態をつく鈴木に苦笑する。
口ではそうは言うが、どこか
「色々あったんだよ、これからがさ。すべてひっくり返しやがって。もうどうにでもなれって感じだ」
「さいですか」
それから鈴木はひとしきりくだを巻く。それはどうしようもない
「どうしてお前は、そうなんだ? どうしたらお前のようになれる」
「そうなんだと言われても、よくわからんが──」
それでも意図を
「俺はな。基本的に
それはもう何度も自覚してきた己のありかた。
どうしても物事に
「そして誰かを想い続けるのにはパワーが必要だ。俺にはそれを
その気持ちは、誰かを愛することでも憎むことでもいい。その二つはつまり同じことだ。
「俺はそんな貴重な情愛を誰に向けるかもう決めちまってる。とりあえずは鈴木、お前じゃない。だからいくらでも許してやれるさ。だってお前はいい奴だからな」
俺が笑ってそう言ってやると鈴木は「お前それ……遠回しに俺のことなんぞどうでもいいって言ってるだろう」と問われる。
確かにそうとも言える。
「相変わらずお前は変な奴だ。普通、彼女を力ずくで奪い取ろうとした相手に『いい奴』なんて感想は出ないぞ」
「そうは言ってもな、俺は自分の信条に
「俺はそんなお前が
「そんなに立派なもんじゃない。俺みたいなのは
「それはわかった。しかしそれなら何故、俺は殴られなきゃならん? 許すんじゃないのか」
「そりゃお前。世の中、何もかもが理屈で動いていりゃ世話ないさ。腹が立ったから殴った。ノリと成り行きだ、許せ」
「その場の勢いじゃねーか」
そんな風に無駄な時間を過ごす。
ときに
「いいじゃないか、それで」
「しかしな、いい大人がおかしいだろ」
「三つ子の
「そりゃ……そうかもな。そうすると、俺は自分の思い通りにならなければまた我を通そうとするだろうさ。だからお前も──ちっとは駄々をこねろよ、俺ばっかりジタバタしてたら見苦しいじゃねーか」
鈴木はフンと鼻を鳴らすと、こちらから顔を
今のはコイツなりの
そうして会話も区切りがついてしまって宙に浮いてしまう。そうなると固い地面で背中が痛いので、半身を起こした。
「それじゃ、ま。
「は。待て待て、何を言っている」
「何が悲しうて野郎と並んで天体観測をせにゃならんのか、と言っている。どれがデネブでアルタイルでベガだ?」
「高橋は放っとくつもりか?」
「え、なんだお前。まさか本当にやらかしたのか」
「こんなこと、冗談でするかバカ野郎」
これまでてっきりハッタリだとばかり思っていたが、どうやら鈴木は本当に高橋を
それはちょっと予想外だった。
しかしさすがに、人生の選択を踏み外しまくっている鈴木であろうとも超えてはいけない一線というのは
「犯罪じゃねーか」
あ、つい本音が。
「ぐっ──一応は彼女に了解を得た。任意同行だ」
「ってお前、そりゃ半強制ってことだろう」
その言葉からは大勢で取り囲んで
「そうだとしても、よく高橋もこんな馬鹿な話にのってくれたな。お前、
「外部の協力者がいた」
「協力者?」
俺が鈴木の返答に疑問を持つと同時に、キャンパスの奥からこちらへと向かってくる足音に気づきそちらを向く。ジャリジャリと不規則な音をたてながら近づいてくるその音は、なんだか
「話は聞かせてもらったわよー」
山本さんだった。
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