第98話 みんなで恋だ愛だと騒いだ日⑦
それからは長い時間を
津軽海峡をフェリーで越えて高速道路を法定速度で爆走し、車ではるか南へと。
途中、色々と旅の
新しい出会いと発見が
その一つ一つが大事な思い出ではあったが、今において優先される事項とは違う。目指すのは大都会、東京。そこに殴り飛ばすべき奴らがいるのだ。
たとえお
そんな一心をもって俺たちは進み続けた。
そうしてようやく到着したのは、俺たちが通う大学のキャンパスである。
人の気配はない。
大学というその性質上、人の出入りがなくなることは
「ながかった……」
思わず口をつく。
「やっぱ函館からはハンパなかったすね」
「すでにグロッキーです」
ここまで行動を共にしてくれた二人の友人たちもフラフラとしていて足元がおぼつかない。これまでロクな休憩もなしでここまで同行してくれたのであるから、感謝ばかりがつのる。
「それで
「場所は詳しくは聞いてなかったが、そのうちに現れるんじゃないか?」
伊藤くんのいうイケメン野郎というのは鈴木のことだ。俺たち三人においては、いけ好かない奴というのはイケメンだと決まっている。わざわざ否定する気にもならなかったのでそのままにしている。
今回のアイツは
それならば相応の扱いというものがあった。
しかし、そのまましばらく待ってみてもウンともスンとも状況に変化はなく、仕方ないので辺りを散策することになった。三人でキャンパス内をウロチョロする。
それにしても本当に誰もいない。
このような大学構内というのも珍しく、それなりに楽しんでもよい状況であったのかもしれない。しかし、三人ともそれどころではなかった。旅の疲労はすでにピークへと達しており、それぞれが「ふはは、ぶっ倒れて寝ちまいてぇ」などと
俺たちがそのように
鈴木だった。
ゆらゆら揺れる俺たちとは違い、しっかりと睡眠の足りている歩みを持ってこちらへと近づいてくる。
「行ってくる」
俺は二人へと断りをいれて、奴の対面に立った。
「ようやく来たな」
鈴木が言う。
「まさか北海道にいるとは思わなかった。なんであんなところにいたんだ、お前は?」
「……」
「だんまりか、まあいいよ」
理由を問われたところで明確なそれなんてない。なので言いそびれてしまったのだが、鈴木は勝手に自己完結している。そのままこちらへと
「お前は怒っているかもな?」
何を怒ることがあるというのか? 意図がわからない。
「自分でも不思議に思っているんだ、俺はこんな馬鹿なことをしでかすような男だったか? それともいよいよ頭のどこかが
はて挑むとはなんぞや?
色々と想像できることはあるはずなのだが──頭が動かない。
すでに俺の頭脳は正常な動作をとってはいない。
「あー鈴木──」
「思えばお前には負けっぱなしだ」
それなので
「高橋はお前を選んだ。それだけだったら、こんなにも
「うんわかった。わかったから、ちょい──」
「
「話を聞け」
「
「もしもし。もしもーし?」
「それでも、それでもなっ──俺にだって意地がある」
こりゃダメだ。
何がダメだってそりゃ、こうして親友が熱い気持ちをブチまけてくれているが何一つ頭に入ってこないことだ。元々から体調は
あー頭がクワンクワンしてきた。
仕方ないので、無理矢理にでもコトを先に進めることにする。
話はすべて
「鈴木よい」
「だから今一度っ、俺はお前に勝負を──は?」
俺は自らの演説に熱中するばかりで周りが見えていない鈴木へと近寄り、軽くポカリとするつもりで
何故か?
それはというと俺はコイツを殴りにきたのであり、今はまともに会話ができない様子である。それならば先にぶん殴ってしまってから落ち着いて話し合えばいいことで、肉体言語こそ
ええい面倒臭いっ!!
スパンッと、小気味よい打撃音が聞こえたかと思うと「あ」とつぶやいてしまう。それなりに手加減するつもりであった打撃は、何を思ったのか渾身の力をもってしまい、鈴木の
まさに会心の一撃というやつである。
鈴木はそのまま仰向けに倒れ込んでしまい、ノビてしまった。
ノックアウトとはまさにこのことだ。
うん、まいっか。
ケセラセラだ。
なるようになる。
とりあえずは今こそ口にするべき言葉を発することにする。
「
俺は
それは誰しもが、口を大にして言いたい日本語の一つだ。
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