第104話 みんなで恋だ愛だと騒いだ日⑬
辺りは時間が経つにつれ徐々に月光の力強さが増し、静かで味のある
とにかく慌ただしい。
なにせ若い娘の
まるで漫画だ。
「なんなんだこれは」
ぼやくしかないが、それで状況なんて変わらない。とにかく目先の危機を回避するためにこそ大学構内を疾走するしかなかった。
途中で多くと
奴らは揃いも揃って手にカメラを装備している。いったいどんな
全力で逃げる。
本来であれば人を一人、担ぎ上げているこちらが不利なことは間違いない。だが相手がおふざけで本気でないこと、そして俺がキャンパス内の裏道を駆使して逃走することにより、状況は
ときに学生の誰もが知らない秘密の裏口をくぐり抜け、ときに防空壕かと問いたくなるような地下施設に入り込み、やり過ごす。
「ひとまずは、ここにっ」
それなので一つの講義棟へと避難する。
通常であればセンサーが反応して警備会社に通報されてしまうが、その棟だけは通年においてセキリュティが切れていることを把握していた。どこぞかの教授が起動させるのを面倒くさがって常態化してしまったらしい。セキリティの穴とはこのように実にしょうもない理由で発生する。
「だっ大丈夫なのかな、勝手に入って」
「大丈夫だよ」
「佐藤くんはなんでそんなこと知ってるの?」
「トラ先輩と夜通し
「佐藤くん……」
高橋から呆れたような視線を感じるが、気にしないことにする。酔って勝手に不法侵入をしでかしたのは先輩の方であり、俺はそれを押しとどめていたという大義名分がある。つまり諸悪の根源は先輩にあり、俺は悪くない。
「とにかく、この棟ならちょっとやそっとで見つかることはないから──まずはその縄を
「そうしてくれると嬉しいかも」
いまだに荒縄により拘束されている高橋を見て口にする。しかし棟内の廊下は薄暗くて細かい作業をするには不向きであった、かといって電灯をつけてしまうことも
「どこに行くの?」
「ちょっと手元が明るそうなところにな、それまでもう少し我慢してくれ」
「構わないけど……佐藤くんは大丈夫、重くない?」
「実は肩口が
「それはちょっと女の子に対して失礼だよ」
「理不尽じゃないかそれ?」
高橋を担いで廊下を進みながら、他愛ない会話をする。
「でもほんとに何なんだろう、ちょっとありえないよね」
「何が?」
「この状況がさ。そりゃだってさ、昔は王子様にお姫様抱っこで運ばれるみたいな妄想をしたことだってあるよ。それが実際には、乱暴に簀巻きにされて男の人の肩の上だよ。もう無茶苦茶」
「ああ確かにな。王子様とお姫様っていうよりかは、山賊に
俺がおどけると高橋がクスクス笑う。その笑顔はどこか気軽な雰囲気でどうやら何かが吹っ切れたように見える。
「さっきまで色々と考え込んでた自分が、なんだか馬鹿らしく思えてきたよ」
「いい傾向じゃないか」
「そうなのかな?」
そうであれば俺としてもありがたい。
そのようにして二人でカラカラと笑いながら進んでいくと、目的地が見えてくる。
「ついたぞ。ここならなんとかなるだろ」
たどり着いたのは一つの中庭。
ロの字をした建物の中央に設置された
それに気づいて仰ぎ見る。
「うわぁ、綺麗だね」
「確かにそうだな」
中庭の
今夜は満月であった。
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