第62話 私からの言いわけ話、聞いてくれる?
ガールズバーへと到着すると、なぜか私服姿の山本さんが待っていた。
「あれ、お仕事中では?」
「あーなんだか、みんなが盛り上がっちゃって──」
視線に追従して顔をむけると、そこには意味深な微笑みを向けてくる従業員一同がいた。なるほど、俺が仕事終わりに用があると言ってきたのを周りに
「責任者からのお達しじゃあ、逆らえないしね」
「責任者?」
言われてみてみると従業員さんの中に一人、少しばかり
「二人とも、気にせず行ってきてください。佐藤くんには昨日お世話になりましたし、山本さんもこれまでずっとお店に
オーナーさんはそう言って山本さんへと近寄り、
東京の高橋よ、俺は飲み過ぎには注意して行動するから安心してくれ。
『いってらっしゃい』
そのようにしてガールズバーを後にする。
従業員の女性たちから笑顔で送り出されたものだから「さっ、気の重くなる話をしましょうか」とはならずに、しばらく様子見をするしかなくなってしまった。
「佐藤くんは晩御飯は食べた?」
「あ、夕方ごろに」
「そっかじゃあ軽い食べ物があるところでもいい? 私はまだ食べれてなくて」
「ああ。なら何でもつきあいますよ。夜食にラーメンでも行こうかなってぐらいの腹持ちだったんで」
「わお、若い青年の胃袋は宇宙だねぇ。よしきたなんでも
「いや、そういうわけにも……」
「いいのいいの。早々に白状するとオーナーから
「そういうことなら、遠慮なく」
何がいいかと問われたので「
よって地元ピープルである山本さんに連れられるがまま、日本料理屋に入る。出てきたのは本格的な
美味な料理を
しかし、するべき話はしなくてはいけないと思い「少し歩きましょう」と山本さんを誘う。彼女はとくに抵抗なく頷いてくれた。
近くにあった川、かの有名な鴨川沿いの遊歩道を歩く。
穏やかな川の流れと、適度な人の
この時間帯でもまだまだ多くの人がいた。
ひたすら前のみを見て直進するもの。ぼんやりと空を眺めながら立ち止まるもの。
そんな彼らの様子を眺めながらに、俺は山本さんへと話しかけた。
「実は、山本さんの実家近くの和菓子屋に行きました」
そこであったこと、
「そっか。ということは佐藤くんは私の事情を知っているってことだよね」
「はい」
山本さんはなんでもない事を聞いたように振る舞い、
「それで、
「しませんよ」
「それじゃあ、同情してくれる?」
「してますよ」
「それは
山本さんはそう言って
「君の『眼』はそういう感じじゃないもの。なんというか
それでも、と彼女は言う。
「君みたいな人がいるから安心できる。人のことを可哀想だとは思っているんだろうけど、本気じゃないというか、『そんなの
「そんなつもりはないんですけどね」
「そうかな。お姉さんは心配だよ」
そう言って彼女は、短く息をつく。
きっと、色々と気持ちの整理をつけている最中なのだろう。
余分なことは言わずに、彼女からの言葉を待つ。
「私はさ。生まれ育って、たくさんの良い思い出ある故郷から離れたいって思ってるのさ。もうこんな針の
そうして踏ん切りをつけたように言う。
「私からの言いわけ話、聞いてくれる?」
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