第14話 長崎ってちょっと、変じゃない?【改稿済み】
翌日の早朝のこと。
チチチと小鳥がさえずり始めて、辺りは薄ぼんやりと日光に照らされる。今日は絶好の
俺は玄関を出ると振り返る。
立派な古民家がそこにあった。
周囲一帯の
もしかしたら田中家は地元の名士なのかもしれない。
ふと、そんなことを思う。
田中ちゃんの祖父母である老夫婦も、会話をするとこちらが見劣りを気にするほどに
すると後方より、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「佐藤さーん。おはよう」
「ああ。おはよう田中ちゃん。今日はよろしく頼む」
「うんっよろしく」
どうやら
「何みてたの?」
「いや、すごい立派な家だなって思って」
「あー、古い家だからね。何でも昔は料亭とかやってたみたいだよ。それを代々受け継いでるってかんじ」
「なるほど、だからか。ご飯、
昨日の田中ちゃんの手料理を思い出す。とんでもなく
「私は普通だよ。あっ、お婆ちゃんの料理は本当に美味しいからさ、佐藤さんがいる間に作ってもらえるよう頼んでみるね」
「これ以上お世話になると申し訳ないところなんだけど──そんな風に言われると興味がつきないなぁ」
「覚悟しといてよ。マジお金取れるレベル」
「あかん。お金取られる」
有料となると貧乏学生には痛い。
「いくら積めばいい?」
「さてどうでしょう。高級料亭のお品書きに金額なんて書かれていると思うかな?」
「あー……一度だけ親父に連れられて入ったことあるけど、あれ恐怖だよな。金額が気になって、味もよく分かんないし」
「そうなんだ。私、そんなお店入ったことないから分かんないや」
他愛ない会話をしつつ、どちらともなく歩き始めた。
田中ちゃんが現れた長い石段を、二人で並んで
道中をおしゃべりしながら進んでいると、彼女のことがわかってくる。
彼女は
思えば、生まれてこの方、十九年。
毎日、毎日。兄弟の顔を見て育ったものだ。
そう、むさ臭い弟の顔をだ。
今でこそ大学に進学して一人暮らしを始めたから、しばらく顔を見てはいないが、まだまだ懐かしいという感慨を覚えるには至らない。見飽きているから。
しかしどうだろう。田中ちゃん。
彼女がもし俺の兄弟であったとして、見飽きるなんてことはあるだろうか?
頭によぎるのは『妹』という一文字、その言葉は俺の
「あっ、ちょっと止まって」
俺が愚にもつかない
ちょうど狭い路地へと入りこみ、石段が交差点のようにクロスしている場所だ。俺たちの側面には民家が立ち並んでいるために見通しは悪い。こんなところで立ち止まる理由がわからずに、呆然としていると「ダダダダッ」と何かが転がり落ちてくるような音がする。どうやら交差点の右方より、誰かが
最初は「何事かな?」とのんびりと
「あの……田中ちゃん?」
「んー、ちょっと待ってね。先に行ってもらうから」
思わず尋ねるも、彼女は何事もない様子でいる。いったい何が起きているのかとハラハラしていると、それは唐突に現れた。
右方よりツナギを着た一人の男性と、彼に
「あ、どーもー」
「どーもー。ご苦労様でーす」
彼らは立ち止まらずに、凄い勢いで階下へと駆け降りていった。
とにかく速く、石段にぶつかっては漫画みたいな飛び
「なに、あれ?」
「え、ごみ収集だけど?」
あまりにも異様で衝撃的な光景に、呆然と尋ねてみると、平然とした返事があった。詳しく聞いてみると、路地が狭く、階段しか通路がない山の手の町においては、収集車なんて進入できるはずもなく、ああして人力に
ええ? だからといって……ええぇ?
こういっては何だが──
「長崎ってちょっと、変じゃない?」
「そう? 普通だよ」
これからの観光が
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