第67話 手紙を読んだ日②

 ──何だこれ。一応、日記として後から見直すこともあるかと、何が起きたかを書き記しておくが、彼女からキスしている画像が送られてきた。相手は知らない男だ。意味がわからん。


 彼は最初、そのように記載していた。

 その後、何かに気づいたような論調になる。


 ──もしかして、あてつけだろうか。嘘だろ、これで? だって嫌そうな顔してるじゃん。いや表面上はなまめかしい笑顔に見れなくもないのだろうけど、目元が引きつっている。こちとらいったい何年の付き合いだと思っているのか、彼女が強張こわばって無理しているのが分かりすぎるほどに分かる。相変わらず演技が下手だ。おそらく、しがらみにならないように誰か適当な人に頼んだのは良いけれど、知らない人だから気持ちがついてきていない。そんなところだろう。分かりやすい。

 

 そして唐突に文字が躍るように震えている。

 電車の中で書いているのだろうかと思うほどの揺れ具合だ。


 ──今、気づいたが一緒にメッセージが添えられていた。笑った。『私は新しい人を見つけたんだから、あんたも素敵な人見つけなさいよ』だそうだ。あおりになってない。これじゃあ激励げきれいだよ。おかしすぎる。よかった、やっぱり彼女は彼女だった。


 笑いが治まったのだろうか、再びキチンとした文字に戻ると、彼はなにか気持ちを整理するような文を書き始めていた。


 ──決めた。仕事はやめる。今日なんてこの日記は徹夜明けの仕事後しごとあとに書いているんだぞ。まともに寝ないで二日間働いているのだ。やってられるかってもんだ。彼女のおかげだ、思いっきり笑ったら気持ちに踏ん切りがついた。兄貴に頭でもなんでも下げてやる、実家の手伝いをする。ただしかよいでだ。実家に通うなんて変な話だが、さすがに両親と妹と兄夫婦と、そして僕たちまでも住むとなると、色々と変な問題も出てくるだろうし、まずそこまで広い家でもない。


 彼の文章はおどっていた。

 日記を読んでいて、ここまで気分が高揚している文は初めてだった。もしかしたら睡眠が取れていないゆえのハイテンションかもしれなかったが、それでも憂鬱ゆううつな気持ちで書かれていないことは分かる。

 そして彼は日記の最後に、何かを決意したような気持ちを書き記していた。


 ──彼女とやり直そう。もうなかあきらめているつもりでいたが、どうにも諦めきれる自信がない。僕は彼女に未練がたらたらなのだ。だったらする行動なんて一つのはずだ。けれど僕からの連絡の取りようがない、どうにもブロックされているようだ……そうだ、手紙がいい。手紙を書こう。僕のありったけの想いをすべて便箋びんせんに書き記すのだ。そうと決めたら即行動だ。そろそろ体力の限界な気もするが、このいきおいをのがしたらいけない気がする。幸い明日は休みなのだ、彼女の心をズバンと射止める一通をしたためるのだ。


 そうして日記は終わっている。


 この日記を読み終わった後、俺は義妹いもうとさんにお願いして、彼が所有していたというパソコンを見させてもらった。ブラウザから大手検索エンジンを立ち上げて、検索履歴を調べてみる。

 すると『手紙 書き方』など『謝罪 気持ちの伝え方』など『再プロポーズ 成功』など。ひっきりなしに様々な要項について調べていた。検索された時間を見てみれば、それは夜半から明け方まで続いていた。


 これで一つ、はっきりしたことがある。

 彼は二徹にてつしていた。



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※ 二徹──二日間、徹夜することの意。するとヤバい。常用的な言葉ではないかなと思ったので一応、注釈を入れます。

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