第2話 ドタバタな週末
「お兄ちゃんこっち来て」
お兄ちゃんを引っ張って鏡の前に連れて行く。お兄ちゃんはもちろんいやいやながら従う感じだ。こんなことして何が楽しい、何がいいんだばかりつぶやいてる。わかってないなー。世の中の女子はかっこいい男子を見たいわけよ。そんできゃーきゃー言うのが楽しいわけよ。だからわたしのかっこいいお兄ちゃんを世の中に紹介したいわけよ。独り占めじゃなくて共有したいんだってば。毎週このセリフをお兄ちゃんにぶつけてるのに全く気にもしてくれない。お兄ちゃん女の子にモテたくないの?
「興味ない」
その繰り返し。もう飽きてきた。まぁいいや。とりあえずお兄ちゃんの服の中から使えそうなものを選んできて無理やり着せて、小物でアレンジしたりしてわたしが気に入るまでいじってみる。難関はヘアスタイルだ。なにしろ普段のお兄ちゃんのヘアスタイルはなんというか…かっぱだ。いやキノコ。
「お兄ちゃん、いい加減ヘアスタイルだけでもなんとかしようよ?」
「どうでもいい」
「いやいやいやそこは妹としてやっぱり改善してほしいです」
仕方ないので揃えてあるスタイリング剤を駆使してなんとかそのイケてない髪の毛をなんとかしようと悪戦苦闘する。ほんのちょっとでも前髪分けるなりアップするなりすればそれだけでもぐんとかっこよく見えるのに。あぁもったいない。キノコからの脱却に悪戦苦闘しながらもなんとかキメてみる。
「どう?今回もなかなかでしょ?」
「どーでもいい。さっさと撮るなら撮れ」
そう言いながらカメラをわたしによこす。わたしが週末イベントを始めたときにお兄ちゃんがこれを使えといって差し出した一眼レフだ。え、そここだわりますか?スマホで十分じゃないですか?今日びのスマホポートレートモードとかもついてますし、キレイに撮れるじゃないですか?なんでガンレフなんて持ってんですか???驚いたものの、お兄ちゃんのことだ、何があってもまぁおかしくはないか。
「じゃちょっとポーズキメて」
「やーだ」
ちっとも協力的じゃないお兄ちゃんにはもう慣れっこだ。お兄ちゃんは好きに本を読んだりパソコンつついたりうろついたりする。その合間になんとかカメラに収める。とりあえず週末イベントは土曜日いっぱいって決まりなので、スタイリングした後はお兄ちゃんがお風呂に入ってもとのキノコに戻るまではわたしの自由だ。土曜日だけのイケメンお兄ちゃん。いやもうもったいないのよほんとに。本当はこのイケてるお兄ちゃん状態で外に連れ出して一緒に遊び回りたいんだよ。でも絶対イヤだっていうから家の中でだけ。
「ねーねー外でご飯たべようよ」
「そんな無駄金使わない」
「じゃマックでコーヒーだけでも!」
「うちでコーヒー飲めばいいだろ。コーヒーメーカーあるし」
全てがこんな調子で却下される。だから一日家でゴロゴロしながらカメラ持ってお兄ちゃん追いかけて過ごす。
あ、そうそう。撮った写真はどうなるかって?お兄ちゃんがいい加減飽きたってお風呂に入るわって言った途端パソコンにカードリーダーつないでデータを移す。結構な数あるから時間かかる。そして帰りの遅いお父さんお母さんを待たずに、お兄ちゃんが作ったご飯を二人で食べた後、そう、わたしじゃないのだ。お兄ちゃんが勝手に好きな写真を選んで自分でフォトショップで気に入るまでいじってコレな、ってデータを放り投げてくるのだ。よくわからない兄だ。何なの。やりたいのはそこなの?かっこいい自分をより良く見せるじゃなくて、単純にフォトショップいじりたいだけなのだな、彼は。
「おまえなーいい加減もう少しちゃんとカメラの勉強してまともな元画像用意出来るようになれや」
「だって結局お兄ちゃんがイジるんじゃん」
「だからってもとが良くなかったらどうあがいても最終結果が無理なんだよ」
「あーはいはい、そのうちね」
言い合いながら、お兄ちゃんがよこしたデータを確認する。いやもう、あなた凝りすぎでしょ。お兄ちゃん自身はそんなに加工されてないけど、背景の込み入った加工たるや。まぁ、家特定されないとかいろいろ考えて…ないだろうけど、なんかカラフルに加工された背景にイケメンが浮かび上がる感じでかっこよい仕上がりになって回ってくるのだ。やれやれ。そりゃ結構アクセス数もあるわけだ。とりあえずアップと。
わたしのインスタはお兄ちゃんの至上命令で全く意味のないIDでコメントも付いても全無視、返事は不可、DMも不可にしてる。単純にアップするだけ。でも反応は気になるからいいねのついた数とかはちょいちょい確認してる。ふふふ。今日も早速いいねついたよ、お兄ちゃん!コメントも増えてるよ!でもお兄ちゃんは全く無視してわたしがアップしたものすら見ようともしない。わたしにデータを送った時点で彼の中では終了してるのだ。全く。どうやったらこんな人に育つんだかって一緒に育ってるはずなんだけど、未だによくわからない。一通り何でも出来て、イケメンなのに、全てばっさり無視して生きてるお兄ちゃん。この兄をこの先どうやって世間に慣らすかがわたしの課題だと最近思うようになってきた。かなりの難題だな。
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