第107話 二学期の始まり

「詩音せんぱーい!」


花梨は相変わらずバスに乗ってくる詩音を真っ先に捕まえる。


「こないだのバスケ以来だけど、調子は良さそうですね、ふふっ」


花梨は訳知り顔で言う。


「でもってー手紙もうポストに入れたからというのがわたしが伝えるべきゆんからの伝言です!ふふふ、待ちきれないでしょ。届くまでもんもんと過ごして下さい」

「おまえな」

「まだ手紙なんですか先輩。じれったいなぁ、もう」

「いいんだよ、今はこれで」

「ゆんが手紙出したって言ってたの8月下旬だったからもうすぐ届くと思いますよ。ゆん、忙しいって言ってました。それで遅くなってごめんってのも伝言です」

「何が?」

「あっちのお父さんと色々やってるみたい」

「???」

「写真の勉強だって。すごく楽しいって」


詩音はゴクリとツバを飲み込む。まさか、レンさんが撮った写真を一緒に見てたり選んだりしてるとか?


「そ、そうか」

「あれ、何かあるんです?」

「いや、別に」

「何か隠してる」

「まだ言えないんだよ」

「何かあるんですね」

「あるけど色々あって誰にも言っちゃいけないんだ」

「ふぅん。先輩一体この夏休みに何やらかしてたんですか?」

「まぁ色々あるんだよ」

「におうなぁ。気になるなぁ。でもま、ゆんも同じく何も語らないんでそういうことだと思うようにします。時期が来ればわたしもわかりますよね?」

「わかると思うよ」

「じゃ、このことはつつかないようにします」


新学期だ。

花梨と詩音がいつものように教室に現れるとわらわらとみんなが寄ってくる。


「花梨!夏休みどうだった?」

「勉強よ。彼氏に見てもらってた」

「あ…ごちそうさま」


花梨と修介のことは学校の伝説になっていて誰もが知るカップルである。


「詩音さんは何してたの?」


花梨のおかげですっかりクラスメートともうちとけているのでみんな気軽に詩音に声をかける。


「うん、提出する作文を練り直したり、推薦文書いてくれる人に会ったりとか」

「詩音さん、留学するんだよな」

「うん、そのつもりで色々やってる」

「すごいよな…」

「やりたいことがあるから、そのためだよ」

「ふふん、ほんとはそれとは違うし」


花梨が口を挟む。詩音は花梨を睨む。そんな詩音の目線を一向に気にすることなく花梨はみんなに向かって言う。


「はいはい、みんな夏休みちゃんと頑張った?ここからが勝負なんだからみんな気を抜かずに頑張ろうね!」


花梨が言うとみんな、おーーー!!!と叫んだ。


「花梨、お前すごいな。なんかこのクラスのリーダーだよな」

「級長他にいるじゃん」

「でもお前だろ、実際に引っ張ってるの」

「ま、こういう性格ですしね。ぶっちゃけゆんと一緒だったらもっと楽しかったし、この受験のプレッシャーももう少しマシだったと思う」

「ごめん」

「何言ってんの。あやまらないで。ゆんだって色々考えてるんだし、わたしは見守るだけだし。離れてたってゆんの友達だし、詩音先輩も色々辛かったりしてるんでしょ?わたし最後までちゃんと見てますからねーだ」

「お前に言われるとこの先は失敗出来ないな」

「当然です。野々村兄妹ウォッチャーもとい、ヲタですからね。ふふん。確実にゆるぎないハッピーエンドを希望です。それ以外はいらないです」

「わかった」


花梨と詩音は顔を見合わせて笑った。


詩音はこうやって笑えるまで自分が戻ったのだと思うとこの1年は無駄ではなかったのではないかと思う。とにかくゆんの元に行かなければと、今はそれが他の何を差し置いても一番の目標だと改めて思った。

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