第28話 事件勃発

「お兄ちゃん、今日ちょっと買い物したいから、ショッピングモール寄ろうよ」

「ん、構わないよ。食材も買わなくちゃだし」

「花梨も一緒に行く?」

「行く行くー!」

バス停に向かいながらショッピングモール行きを決定する。

「久しぶりだね、一緒にショッピングモール行くの」

「そうだね。ゆん、何を買うつもりなの?」

「へへー内緒」

ゆんはヒソヒソと花梨に耳打ちする。

「あのね、お兄ちゃんの誕生日プレゼント買おうかなって」

「まだずいぶん先じゃん。詩音先輩8月生まれじゃなかった?」

「そうなんだけど、こないだいいの見かけたから今のうちにって思って」

「ほほー殊勝なこって」


最寄り駅直結の大型ショッピングモールに到着した3人は二手に分かれた。

「俺、食材買いに行くから」

「うん、じゃ終わったらこの入口で待ち合わせね」

「オッケー」


「ゆん、何を買うつもりなの?」

「んとね、ピアス」

「はぁ?ピアス?」

「お兄ちゃん穴開けてる」

「うそっ」

「ほんとほんと」

「うわー知らなかった!」

「もちろん学校じゃ無理だし、家でつけてたり、ちょっと出かけるときにつけてたりすることがあるだけなんだけど」

「詩音先輩まだまだなんか隠してそうだな」

「そんなことないよ」

「そうかなぁ。絶対まだある。うん」


エスカレーターで2階に上がるとゆんがこっちこっちと花梨を引っ張る。

「あそこのお店なの」

「高そうじゃない?」

「百貨店じゃないからそうでもないよ」

全体的に黒で統一されたシックな店だった。

「いらっしゃいませ」

センスの良い服装をした若い男性店員が迎える。

「店員さんかっこよくない?」

「花梨ったら!」

「何をお探しですか?」

「あ、この間見たんですけど、音符のピアス…」

「あぁ、こちらですね」

いくらか種類がある中でどれにしようかゆんは悩む。

「うーん、どうしようかな」

「何で音符なの?」

「お兄ちゃん音楽好きだから」

「えー!そうなの?」

「うん。それも知らなかったわ」


花梨は驚く。詩音先輩って…何者?ちょっと待って。あのウザい男が言ってたことって当たってたりする?確かに超イケメンっていうのを知っちゃった今、アイツの言ってることもあながち間違いじゃないのかもしれないなんて思えてきた。でもわたしが気になってるのはまた別のことだから。うん。


「あ、これにします。ヘ音記号の」

「あんたまたそういうの選ぶわけ?」

「だってト音記号ってありがちじゃない?」

「まぁそうだけどね」

「プレゼント用なんです」

「承知しました。ラッピングするので少しお待ち下さい」

支払いを終えてしばらく待つと、小さな箱がラッピングされてリボンがつけられ、小さい紙袋に入って手渡された。

「ふふふ。喜んでもらえるかな」

「あんたがあげるものならなんでもいいと思うよ、ぶっちゃけ」

「えーでも結構お兄ちゃんうるさいよ」

「うそ。まぁ家では俺様っぽいもんな」

「そうでもないよー。すっごく優しいよ」

「あー、はいはい。どっちなのよったく。ゆん、ちょっとそこの休憩所でジュースでも飲まない?」

「うん、そうだね」


少し広めの休憩スペースに着くと自動販売機でジュースを買って二人は腰をおろした。その二人を見ている男たちがいた。他校の男子学生だった。4人の男子生徒は二人に近づいてきた。


「ねーねー君たち可愛いね。一緒に遊ばない?」

無視。

「怖くないよ、俺たち優しいよ?」

無視。

「ねぇその制服あの進学高校だよね?へー頭いいんだ」

無視。

「特に君可愛いね」

一人の男子学生がゆんに手を伸ばす。

ビシッと花梨が手を払いのける。

「お前なんなんだよ」

「触るんじゃないわよ」

「何だと?気取ってんじゃねーよ」

「そうだよ、お前には用はないわ」

「そっちのかわい子ちゃん、一緒に遊びにいこうよ」

男子学生達がゆんを取り囲む。

そのすきに花梨はすばやく詩音に電話をかける。

「2階の休憩スペース。早く来て!!!」


男子学生たちはゆんの両腕をつかんで引っ張って行こうとしていた。


「触るな!!!!!」

「お兄ちゃん!」

「先輩!」

「はぁ?お兄ちゃんだと?なんだこのだっさいヤツは」

「わらかしてくれるぜ。兄貴なんて嘘だろ?」

ぎゃはははははは。

詩音は冷静に状況を見て、向かってきた一人をまず突き飛ばす。

「コノヤロー!!!」

突き飛ばされた男が詩音に向かって突進してくる。

詩音は容赦なく蹴りを入れる。

「いってぇ…」

それを見て他の3人が詩音に襲いかかってきた。

詩音は身をかわしながら、冷静に確実にパンチと蹴りを加える。

まわりに人だかりが出来ていた。

何度襲いかかってこられても詩音はひらりとかわしながら相手にダメージを加える。

「っくそ…!」

ヤケになった一人がやみくもに襲いかかろうとする。

腕を振り上げて詩音に落とそうとした瞬間、顎に詩音のパンチが見事にハマっていた。

「ゆん、花梨、逃げるんだ!」

3人は急いで荷物を抱えると、人だかりの合間を抜けて一気に駐車場まで駆け抜けた。

「ハァ、ハァ…ここまでくれば大丈夫だな」

「先輩何で逃げたんです?正当防衛じゃないですか」

「面倒だろ。学校にも知られたら面倒なことになる」

「確かに」

「でも目撃者いるし防犯カメラもありますよ?」

「あいつらこの辺で有名な悪ガキ共なんだ。やられたって知られたくないから、ことを大きくはしないだろうさ」

「でも大丈夫なの?お兄ちゃん?仕返しされたりしない?」

「大丈夫だよ、あいつらの上を知ってるから」

「あーそういうことね」

「ゆん何いってんの?先輩本当に大丈夫なの?」

「まぁ色々あるのさ」


ちょっと待って。あいつらの上ってなんなの。詩音先輩ますます怪しくない?あのバカ男が言ってることひょっとしたら間違ってないのかもしれないんだけど…


「さ、帰ろうか。二人に何もなくて良かったよ」


涼しい顔で言うと詩音は歩き出した。









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