第29話 噂は回る

「ねぇ聞いた?昨日駅前のショッピングモールでさ…」

「聞いた聞いた。あの2年の女子のダッサイお兄ちゃんがあそこの高校の悪ガキを一網打尽にしたんだって?」

「うそでしょ。無理無理、ありえないって」

「でも見たって人いるんだよ」

「見間違いじゃない?」

「それは見事だったって言ってたよ。かすり傷一つ負ってないよあれはって」

「信じられない」

「だよね、まさかのでしょ、それ」

「だってあんなに辛気臭くて弱っちい人じゃん」

「ねー。やっぱり見間違いじゃないの?」

「でもあの2年の女子二人と一緒にいるのってあの兄貴なんじゃないの?」

「兄貴が誰か助けでも借りだしたんじゃないの?」

「そうとしか考えられないよね」

「うんうん。そうだよね…」


昨日の事件は速攻で学校中に広まっていた。

誰もがありえないを口にしていた。


「ゆん、何も気にしなくていいからね」

「するわけないじゃん」

「ほほー」

「お兄ちゃんが喧嘩強いだろうなってのは知ってたから」

「はぁ?」

「ああ見えてね、合気道だとかテコンドーだとかやってたんだ」


花梨は思い切り椅子からずっこけた。はぁぁぁぁぁ?ちょっと待って。詩音先輩って史上ありえない完璧男子なんじゃない?ひょっとして?


「それでね、昨日言ってたあいつらの上っていうのは多分、テコンドーとかの先輩のことだと思うんだ」

「あ、なるほどね」

「だからまぁ大丈夫かなって。ただこんだけ噂されてるから先生たちに呼び出されないかなってそこが心配なの」

「確かにね」


詩音の教室でもヒソヒソ話が充満していた。


またかよ、野々村詩音!

修介はまたまた不機嫌になっていた。今度は1対4で無傷で生還だと?ありえねーわ。あの不良高校の中でもワルって言われてる連中だったんだろ?詩音じゃないだろー流石に。でも見たってヤツが言うにはキノコ頭だったって言ってたんだよな。あーわからねぇ。アイツに似たキノコ頭のツワモノだったってだけなんじゃね?それしか考えられないわ。


修介は詩音をガン見する。

修介の視線に気づいた詩音は修介に向かってニヤっと笑うかのように少し口角を上げた。


なっ………見間違いじゃないよな、今の?

お前だったのかほんとに???

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