第27話 納得行かない

教室で修介はぼーっと野々村詩音を眺めていた。

あいつがイケメンってなんなんだよ。何か勘違いしてるんじゃないか?どっからどうみてもきのこの山だろが、あれは。


「修介何見てるんだよ」

「なんでもねぇよ」

「また野々村かよ。何がそんなに気になるんだ?」

「そうだよ、放っておけよあんなヤツ。下手に関わるとまたお前が損するだけだぞ、この間みたいに」

「こないだのバスケは酷かったよな。何がこいつ1対2でもいけるだよ」

「うるさいっ」

「まーまー、お前がそんなに気にしてるんなら俺たちもからかってやろうぜ」


修介の取り巻きが詩音に近づく。


「しーおん君?何をそんなに熱心に読んでるんだい?」

「………」

「俺達にも見せてくんないかな。ひょっとしてかわい子ちゃんのグラビアとかなんじゃないの?」

アハハハハ!取り巻きたちが一斉に笑う。

「なぁいいだろ?何読んでるんだよ」

取り巻きの一人が詩音の持っている本をむりやり奪おうとする。

「さ…触るな」

「おーしゃべった」

「何でもいいからそれよこせよ」

詩音から本を取り上げると仲間内でパスしだした。

「ほーら、修介、詩音の本だぞ」


ぽんと放り投げてきた本が修介の手に渡る。ずしりと重いハードカバーの本だった。

修介はその本を何気なく開いてみた。


なんなんだよこれは。

英語の原書?こないだのと同じ本か?


「誰か音楽詳しいやついねー?」

「河村バンドやってね?」

「そっち方面じゃなくてパソコンで音楽やってるやついない?」

修介が声をかける。

「あーちょっとだけ」

そう言いながら清水が歩いてくる。

「これなんかわかる?」

修介は清水に本を手渡す。

手渡された本のタイトルを見る。

『Digital Audio Editing: Correcting and Enhancing Audio in Pro Tools, Logic Pro, Cubase, and Studio One』

「あーなんかDTMソフトの解説本?誰がこれ読んでるの?」

「野々村の本だよ」

「え?野々村?」

「あー俺英語の本とか読めないんだけど、DTMソフトの名前が羅列されてるからさ、そういう本なんだと思う。これハードカバーで高そうだな」

そう言いながら清水は詩音の席に歩いていく。

「野々村君、これ読めるの?」

「読めなかったら持ってる必要ないだろ」

「あ、そっか。そうだよね。これどんな内容なの?」

「一通り使える人が更に参考に出来る本」

「ふぅん。てことは使えるんだ」

「………」

「あははは、まさかね、俺でも使いこなせてないし。ま、これとりあえず返しとくよ。高そうだもんな。ま、しっかり読めよ。英語だし下手の横好きだろうけど」

清水は完全に勘違いしていた。


「なんだよー清水、あっさり返すなよ。つまんねーな」

「お前らが見たってわからないだろ?」

「まぁそりゃそうだけど」

「それにしても意外だな。野々村君、ああいうのに興味あるんだ」

「興味あるってだけだろ」

「だよな。あいつセンスなさそうだもんな。あはははは」

「だよなーあんなヤツが音楽やるとか無理無理」

あははははは。修介の取り巻きたちはひとしきり笑い転げていた。


いやあれ、あいつのことだからちゃんと読めて理解してると仮定して間違いじゃないと思うぞ。わかんないけど。


修介はモヤモヤしまくっていた。


何なんだよ。学業優秀、スポーツ万能にまだ確認出来てないイケメンの上に音楽までやってんのか?ありえない、ありえない。きっと何かの間違いに違いない。うん、そうだ、間違いだ。イケメンは絶対ないし、音楽はガキのお遊びだ。そうだ。


どこまでも詩音に対して納得が行かず、さらにモヤモヤが募る修介なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る