第68話 ゆんの決心

新学期が始まった。

ゆんは一人で学校に向かう。バスに乗れば花梨がいつものように声をかけてくる。でもいつも手を繋いでいた詩音はいなかった。詩音が居ないとなると、ゆんに近付こうとする連中も湧いて出たが、当然のごとく、花梨がブロックしていた。さらには修介も花梨の手助けをしていた。

「あんたが詩音先輩を助けるようなことするなんてね」

「あいつの大事な妹だろ?それにいい子だし」

「ふーん、あっそ。でも助かる。ありがとう」

「おまえに感謝される日が来るとはな」

「なんだとー!」

二人は相変わらずだなとゆんは思う。言い合いながらも楽しそうな二人が素直に羨ましいと思った。


なんだか灰色だな…何もかもがくすんで見える。ただお兄ちゃんがいないだけでこんなふうに感じるんだね。


ゆんは夜、ゆりが帰宅するのを待って切り出した。

「お母さん、由奈さんの連絡先教えてもらえる?」

「もちろんよ」

「あのね、お母さんはわたしのお母さんだよ。それは一生変わらないの」

「ゆん…」

「それだけは言っておきたかったの」

そう言うとゆんはもらった連絡先を持って自分の部屋に戻った。


うん…と、メールがいいよね。文章長くなっちゃうから。


自分のノートパソコンを開けて起動させるとゆんは文章を打ち込み始めた。


由奈さん


ゆんです。突然メールを送ってビックリされていると思います。

こんなことを頼むのは無茶なことだと思うのですが、来年の春からわたしをそちらに置いていただけないでしょうか。

兄が休学してそちらに残ることにしたそうです。来年もう一度3年生をやって卒業すると聞いています。

兄が帰ってきてもわたしは兄に向き合える自信がないんです。このままではわたしも兄もお互いに傷つけ合うだけなんです。とてもつらくて、でも今はどうすることも出来ないんです。

逃げることになるのはわかっています。でも今のわたしが考えついたのはこれだけなんです。

由奈さんが母にこのことを言うのは構いません。言わないでと頼んでも母には伝えると思うから。でも兄にだけは絶対に知られないようにして下さい。知られたら兄は自暴自棄になってしまうと思うから。

頼み事ばかりしてごめんなさい。

色々と手続きがあると考えて、今こうしてお願いしようと決心しました。

もちろん無理だというのであれば、このお願いをなかったことにして下さってかまいません。返事をいただけなかった場合は無理だったのだなと思うことにします。


打ち込んだ後、何度もゆんは文章を読み直す。メールアドレスも何度も確認する。そして、大きく深呼吸をしたあと、送信ボタンを押した。

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