第67話 それぞれの選択

新学期が始まろうとしていた。詩音が帰ってくる気配はなかった。ゆりは連絡を受けて学校に出向いていた。

「それではそういうことでお願いします」

「我が校設立以来の秀才ですから、来年もう一度3年生をするとしても私どももバックアップ致します」

「ありがとうございます。御無理を言って申し訳ありません」

「来年3年生をするとして、最終的には留学ですか?」

「はい。やりたいことがあるようなので」

「分かりました。留学についてはこちらでも調べます」

「よろしくお願い致します」

ゆりはホッとため息をついた。詩音はアメリカに残ることを選んだ。想定よりも早い親離れだったが詩音のことだから納得していた。しかし、ゆんが心配だった。ゆんはどの教室にいるのだろうと校舎を見やる。詩音が戻って来れば…かすかな希望かもしれないが、離れている間はきっとこのままなのだろうと覚悟は出来ていた。良い方向に動いて欲しいのだけれど。ゆりもまた、自分達が間違っていたのだろうかと悩んでいた。


夏休み最後の土曜日、バスケ広場にゆんは花梨と来ていた。

「ゆん、詩音先輩帰ってこなかったの?」

「そうみたい」

「そうみたいってあんた…」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんの道を歩き始めたんでしょ。お母さんが言うには、今のプロジェクト終わるまで向こうにいるって。今年は休学するって言ったんだって」

「あんた何か先輩に言ったんでしょ」

「別に…」

「ゆん、どうしちゃったのよ?あんたもっと素直で真っ直ぐな子だったじゃない」

「そうでもないよ。花梨が知らないだけ」

「それで一体何がどうなってるのよ」

「んー、本当のお母さんに会った。わたしはあの家の子じゃないって知った。それをお兄ちゃんはずっと前から知ってた。何も知らなかったのはわたしだけだった。バカみたい」

「は??????何を言い出すの、ゆん!!!」

「本当のことなんだってば」

「も、もしかして、あの写真の女性ひと?」

「うん」

「あ、あんたそんな大事なことをなにさらりと言っちゃてんのよ!それじゃ、あんたと詩音先輩は本当の兄妹じゃないってこと?よね?」

「そうなるよね。一緒に育ったってだけ」

「それじゃさ、先輩のこと好きでも問題ないんじゃない?」

「そんなに簡単に割り切れないよ。それより、お兄ちゃんはもうゆんのことどうでもいいんだなって。お兄ちゃんはお兄ちゃんの道を歩きだしたんだなって思って。わたしはどうしたらいいかなって…」

「ゆん???」

「ほんとに…もうどうしたらいいのかわからないの」


わからないと言いながらも、ゆんには密かに決意したことがあった。


「詩音帰って来ないんだって?」

一通りバスケのゲームを終えた修介がゆんと花梨に声をかける。

「まったまたあいつ何を考えてるんだよ」

「詩音先輩はあんたみたいに単純じゃないんだよ」

「単純で悪いか。わかりやすくていいだろ」

「ま、確かにそれはあるわね」

「はー、あいつに勉強教えてもらおうとか考えてたのに」

「ばかねー、あんたの頭が先輩の頭についてけるわけないじゃない」

「だからこその勉強だろうが」

「あーはいはい。あんたはのんきでいいよね」

「なんだとー!」

花梨と修介は追いかけっこを始める。

いいな…ゆんはふと口をついて出た言葉が悲しかった。


家に戻った花梨は詩音にメッセージを送る。


花梨:先輩、ゆんが相当ひねくれちゃってます

詩音:そうか

花梨:何があったんですか?

詩音:色々と

花梨:先輩も大丈夫なんですか?

詩音:大丈夫じゃないな

花梨:帰ってくるべきじゃないんですか?

詩音:今は無理だ

花梨:はやく何とかしないとよけいこじれちゃうと思いますよ

詩音:そうだね。ゆんを頼む


一体何がどうなってるの?詩音先輩も様子がおかしいよ。兄妹ウォッチャーのわたしとしても、こんな展開は予想もしてなかったんだけど、何かお互いに行き違ってない?じゃない?なんなの、二人とも。でも、わたしはこうして様子を聞いてみることしか出来ないし、間に立って解決へなんてことも出来ない、二人の問題だから。しゃーない、このまま見てるしかないね。スマホをベッドの上にぽんと投げると花梨は大きなため息をついた。

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