第66話 なぜ伝わらないんだろう

ゆんは家に戻った。自分の部屋に入ると鍵を締めた。誰にも邪魔されたくなかった。考えても考えてもわからないことだらけで不安に押し潰されそうだった。


「直接聞いてみるべきなのよね…多分」

ゆんはつぶやく。それしか方法はないのだろう。詩音とメッセージのやり取りをしたのはいつ以来だろう…LINEの履歴を見る。


「なさけないな、仲良し兄妹だったのに」

ゆんは苦笑いした。そして、詩音が残していたプレイリストを再生する。


「痛いんだよ、胸にグサグサくるんだよ…曲の選択やばすぎでしょ」

ゆんは苦しそうに顔を歪めて笑う。

「わかってるの、でもね…まだどうにも出来ないの…お兄ちゃんがずっと前からわかっていたってこと、お母さんもお父さんも知ってたみたいってこと…わたしだけがバカみたいじゃない、ほんと…」

思えば思うほど、思い返せば思い返すほど、涙がにじむ。


そしてふと思い出す。時差がある、あちらでは今、お兄ちゃんの誕生日だと。誕生日のブレゼントは届いたのかな、あのメッセージをどう受け取ったのかな…ふと思い出して気になった。


ゆん:18歳の誕生日おめでとう


無意識のうちにそれだけLINEメッセージを送っていた。送った後、それくらいならいいだろうとゆんは思った。そして思う。わたしはまだ何かに賭けてるんだな、と。


らいん〜♪

詩音:プレゼントありがとう。凄く嬉しかった


喜んではもらえたんだ、とほっとする。そのプレゼントを買いに行ったショッピングモールであんな目にあって、その後その不良達があやまったのってついこないだのことなのに、と思う。そう思うとゆんは止まらなくなってしまった。


ゆん:髪切ったんだって?

詩音:なぜそれを?

ゆん:今日由奈さんに会いに行ったんだよ

詩音:そうだったね

ゆん:そうだったって、お兄ちゃんなんでもお見通しなわけ?

詩音:写真を撮ってくれたのがたまたまレンさんだったから

ゆん:それで何もかも聞いたわけでしょ

詩音:聞いたよ。ゆんも聞いたんだろう?

ゆん:聞いた

詩音:俺たちが本当の兄妹じゃないって聞いたんだよね

ゆん:でも、でも、みんなわたしを騙してたんじゃない!

詩音:そうじゃないよ

ゆん:そうじゃないよって、そうじゃない!わたし一人が色々悩んでたわけじゃない。それなのに…お兄ちゃん何も言わずにアメリカなんか行っちゃって、おまけにあれだけ頼んでもダメだって言ってたのに髪の毛まで切って、写真まで撮ってもらってなんて一体何なの?もうゆんのことなんてどうでもいいんだよね?お兄ちゃん、自分の人生を歩き始めたんだよね

詩音:俺の人生はお前無しではありえないよ

ゆん:信じられない。お兄ちゃんなんて大嫌い!!!


ゆんはそれだけ送るとスマホの画面を閉じた。


詩音は打ちひしがれた。まさか、ゆんがそんなことを言うとは思ってもいなかったから。iPhoneの画面を見つめながら、ただ泣くことしか出来なかった。そして、部屋を出てジェレミーに告げた。


「俺、このプロジェクト終わるまでこっちにいるよ。学校は一年留年する。その後卒業したら、こっちに留学するよ。しばらくここに置いてもらってもいい?」

「詩音!何を言い出すんだ???」

「ダメみたいだ…もうどうしていいのかわからない」

「詩音???」

「ゆんが大嫌いだって…」

「あーおまえらな…」

ジェレミーとセシルは顔を見合わせて頭を振りながらも、あまりにも落ち込んでいる詩音をただ抱きしめて励ますことしか出来なかった。


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