第69話 レンと由奈は考える

「レン、ちょっと来て!」

由奈はレンに向かって叫んだ。

「どうしたんだい?」

「これを見て…」

レンはゆんが由奈に宛てたメールを読む。

「どうしましょう、あなた…」

「一体どうなっているんだ?」

「どうやら二人の間に問題があるようね」

「詩音君は待つつもりだよ」

「ええ、それはわかっているの。でもゆんちゃんがどうしていいのかわからないみたいなの。話したでしょう?あなたが送ってくれた写真を見てゆんちゃん物凄く怒って帰ってしまったのよ。わたしにはどうしてなのかわからなかったのだけど、こうしてわたしにこんなメールを送ってくるくらいだから、とても悩んでいるみたいね」

「そうだね。兄には絶対に知られないように…か」

「レン、どうしましょうか」

「ゆんがここに来たいというのなら、僕には拒否出来ないよ。本当の娘なんだから。それに、この手続きというのが気になるね。もしかして寺本姓に変えることも考えているのかな」

「そうなのかしら…でも確かにこちらに住むとなると、実の親子なら手続きもスムースに行くわ」

「そうだね。ゆんはそこまで考えた上でこのメールを送ってきたんだろうか」

「確かにそうね、この時期にお願いするとも書いてあるわ」

「由奈、君はどうしたい?」

「正直な気持ちを言うと、ゆんちゃんと一緒に生活してみたいわ。年に一度しか会うことの出来ないわたし達の娘よ。わかっているの。ゆんちゃんにとって、本当のお母さんはゆりなの。それでも、年の離れた良い友達、あるいはお姉さんとしてでもゆんちゃんの事をもっと知りたいと…欲張りね、ただ何か手助け出来ることがあるならしてあげたいと思うの」

「そうだね。しかし、野々村さんご夫婦にも聞いてみなければ」

「もちろんよ。ゆんちゃんに返事をする前に、ゆりに相談するわ。ゆりには言うだろうともちゃんとわかっているみたいだから」

「僕は、詩音君の気持ちを聞いた以上、詩音君がゆんと幸せになって欲しいと思っているんだ。彼ほどゆんを大切に思ってくれている人はいないと思うんだ。それなのに、その二人が今悩んでいる。もちろん力になりたい」

「それでは、ゆりと話し合って、ゆんちゃんを引き受けても良いと?」

「あぁ。何か問題があれば僕に言ってくれ。うちの弁護士も力になってくれるだろう。僕は…ゆんはずっと野々村さんの元で過ごして結婚して幸せに暮らすのだと覚悟していたよ」

「わたしもよ。でも…わたし達になにか出来ることがあるなら…」

「そうだね。ゆんを預けてしまって何も出来なかった僕たちが何か出来ることがあるのであれば、そしてゆんが助けを求めて来たのであれば拒む理由はひとつもないよ」

「ええ、そうね」

「ところで…詩音君なんだけど」

「どうしたの?」

「この間、バーノン・リッケの撮影をしただろう?その時彼のマネージャーがあそこに飾ってある詩音君の写真を見てぜひ紹介してくれと」

「当然ね。どこのどのスカウトが来てもおかしくはないわ」

「彼はとても有名なプロダクション所属だ。マネージャーが言うには、高級ブランドがイメージモデルを探しているんだそうだ。しかし、誰を推薦しても蹴るらしい。バーノンでさえダメだったんだそうだ。もっとフレッシュな印象のある若者がいいと。おそらくは中華マネーを見込んだ戦略だ。とすると、アジア人である詩音君はもってこいだと直感したらしい」

「詩音君以上の適役はいないわね」

「でもわかっているんだ。詩音君は受けない」

「そうよね」

「でも思ったんだ。詩音君にはそういう可能性もある。彼はゆんのことを思って色々と自制してきたんだ。だから…二人にはもっと自由に輝いて欲しいとも思うんだよ。まだ若いうちに…全ての障害を取り除いてあげたい」

「ええ。そして二人が幸せになれるように…」

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