第12話 天敵が備える
お…お兄ちゃんが学校を休む…。天変地異が起こったらしい。ていうかわたしが風邪引いたりして休むときはお兄ちゃんも休んでつきっきりで面倒見てくれるんだけど、その逆は今まで無かったんだよ。わたしも休むべき?でも昨日の今日だ。昨夜喧嘩しちゃったからわたしが休んでも無視されるだけだと思う。ゆん!お兄ちゃん依存症じゃないってとこ見せるべきじゃない?
ふつふつと何かしらの感情が湧いてきて、朝ごはんを食べ終えたわたしは決心した。
「学校行ってきます!!!」
この決心が色々と引き起こすことになろうとは神のみぞ知るであった。
「ゆん、大丈夫なの?お母さん心配よ」
「大丈夫だよ!…と思う。花梨もいるし、高校2年にもなって一人で学校行けないとかおかしいでしょ?大丈夫、大丈夫」
まずはバスの停留所に向かう。いつもなら外に出た途端無愛想になったお兄ちゃんに一方的に話しかけながらボソボソ言うお兄ちゃんの言葉を聞いて笑ったり、突っ込んだり。うーん、一人だとバス停までが長いね。
バスに乗り込むと花梨に見つかった。花梨はわたしより二つ前のバス停から乗り込んでるのだ。
「え?ええええええ???ゆん、あんた一人なの???あの暗いボディーガードいないの???」
「一人じゃいけないの?」
「こりゃえらいこっちゃだわ、一大事だわ」
「どうして?」
「ゆん、今日一日覚悟しときなさいよ。わたしもなるべく一緒にいてあげるけど」
「うん?お兄ちゃんがいないだけで何がそんなに一大事なの?」
バス車内の同高校生徒達
名物の兄貴いないぞ!
ゆん様一人で登校!
チャンス到来かも!
狭い車内には必死にLINEやら何やらを送信する生徒が多数見受けられた模様である。
「ははーん。わかりやすいな、喧嘩でもしたか、アイツら」
高上修介の元にもメッセージが回って来ていた。
しかし、だ。思うに多分今日一日だけだ。今日中に声かけないとな。見てろよ詩音。ま、焦らずに行こうや。今まで観察してたパターンによると…ブツブツブツ。ここに一番怪しい男がいるのであった。
「いやーゆん、あんた一人で登校っていつぶりよ」
「高校入ってからは初めて」
バスを降りて校門までの道すがら、花梨の質問責めにあう。
「で、兄貴はどうしたのよ」
「なんか調子悪いみたい。今日は休む、プイって部屋に戻っちゃった」
「風邪かなんか?」
「多分…」
「それか喧嘩したか。今までになく派手に。詩音様の機嫌損ねちゃったか。とうとう?」
ギクッ…花梨はお見通し?
「お昼にでもゆっくり聞くわ。まぁ今日は一日わたしに引っ付いてなさい。しょうがないなぁ、ゆんのボディーガードが職場放棄するなんてさ。後で倍返ししていただこう。ふっふっふっ」
「えーもう、それが目当てなの?花梨ってば!」
「そのくらいして貰わないと割に合わない」
「えー、わたしが花梨に引っ付いてるだけで?」
「すぐ分かるって」
そう、すぐわかったのだ。教室までの道すがら、声をかけようとする男子多数、それを花梨が「はいはい、後で後で」などと言いつつさばきながら二人は歩く羽目になったのだ。
「ね。わかった?」
「ハイ、花梨様、えーん」
「よく覚えておきなよね。これが兄貴の居る居ないの違い。あんたバカよね、全然わかってなかったの?」
「ある程度は。でもいつもお兄ちゃんがいたからあんまり考えたことなかった」
「まいいわ、帰りはうちのお姉ちゃんも一緒に帰ってくれるって言ってるから」
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「気にしない、気にしない。倍返し期待してるし!お姉ちゃんはある程度分かってるハズだし大丈夫だよ」
野々村詩音、高上修介と花梨の姉、川奈莉奈はクラスメートである。ヤマ張って勘で話しかけてみる。
「川奈さん、今日妹さんと帰るの?」
「え?あ、なんで分かるの?」
「妹さん、野々村ゆんさんと仲良いよね?」
「そうなの。今日野々村君来てないじゃない。大変だから一緒に帰ってって言われたのよね」
「ふぅん。ね、女の子3人じゃちょっと不安じゃない?野々村さんに声かけたい男子たくさんあらわれるんじゃない?」
「あはは。花梨の気の強さ知らない?平気よ」
「なんなら僕も一緒に帰るよ。詩音は中学からの知り合いだし」
「別にいいわよ。下手に人連れてったらそれこそわたしが花梨に怒られちゃうよ」
「ふぅん。そっか。うん、わかった」
この男がこのまま引き下がるはずはなかった。ずっと狙っていたチャンス到来。逃すなんて以ての外であった。
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