第37話 すれ違う二人の思い
らいん〜♪
花梨:先輩、映画見てみました?よーく反省して下さい。それと、土曜日バスケ見に来いって高上修介に言われました。一応ご報告まで。先輩には知らせてないフリするから何かあったらよろしくです。
作業部屋で丁度映画を見終わったところだった。正直頭を抱えていた。タイトルだけ見てただなんとなく選んでみただけだったけど、こんな内容の映画だったとは。一緒にみれた内容じゃなかった。今までの努力がすべて無駄になってしまったように思えた。ただ呆然としていた。
コンコン
「お兄ちゃん?お腹空いちゃったよ。何してたの?」
「ん、別に…」
「何か作ってー」
「ん、わかった」
どんな顔してゆんに向かえばいいんだ。あまりにも動揺していた。
「ちょっと調子悪いからラーメンでもいい?」
「あ、ラーメンならわたしが作る!調子良くないならお兄ちゃん休んでて!」
パタパタとゆんはキッチに向かって歩いて行った。
作業椅子に座って目をつむったまま色々考えているうちにゆんが呼びに来た。
「お兄ちゃん、ラーメン出来たよ!ゆんスペシャルだよ!」
「ほらねータコさんウィンナー入れて、うずらの卵うさちゃん入りだよ!」
無邪気に説明しているゆんは一体何を考えているんだろう。
「ゆん…昨日はごめん」
「何がー?」
「映画…のこと」
「なんだー。お兄ちゃんさ、あれ見たことなかったでしょ?」
「うん」
「あんな映画引っ張ってくるなんてお兄ちゃんらしくないもん、見てないんだなって思った」
「ゆんは観てたのか」
「うん」
「そっか。本当にごめん」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん、ゆんは妹だもん。兄妹で愛し合うとか、抱き合うとかだめじゃん、でしょ?」
「そう…だね」
「でしょう?それにいくらお互いに好きでも諦めるしかないじゃない。なら最初からそんなことにならなければいいだけのことだよ?」
「そっか」
「そうだよ。もう、なに深刻な顔しちゃってるの?笑って?」
笑えるわけない、無理だ。そんなこと言われて笑えるはずがないじゃないか。
「ほらほら、暗い顔しないで。ゆん映画のことは気にしてないよ」
ゆんは立ち上がって手を伸ばすと詩音の両頬をむぎゅっとつまんだ。
「笑うのだー!!!」
ゆんは出来る限り冷静にいつもの様に振る舞おうとしていた。指が少し震えていたかもしれない、でも多分お兄ちゃんは気づいてない。これでいい。
「ねーねー、食後のコーヒー淹れるから、お兄ちゃんはソファでゆっくりしてて」
「んー」
「今度の土曜日イベントはどんな感じにしよっかなー」
コーヒーメーカーに豆をセットしながらゆんが言う。
「あ、バスケ行く」
「あ、そうなんだ」
「すごくバスケ上手い大学の選手連れて来るって先輩言ってた」
「わー!でもお兄ちゃんの方が上手いよ」
「分からないよ」
「ゆんには分かるー!お兄ちゃんが一番だもん!」
詩音は思わず苦笑する。
「ほら、やっと笑った。お兄ちゃん、笑ってる方がいいよ!暗い顔しちゃダメだよ!」
コーヒーが出来上がるまでの合間、ゆんはいつものように詩音の横に座る。とにかくいつもの様にしなくちゃ。しかし、横に座ったものの俯いた顔は震えているように見えた。
詩音は代わりに立ち上がってコーヒーをカップに入れると運んで来た。
「ほら。コーヒー出来たよ」
「うん」
詩音がローテーブルにマグカップを置いてソファに座ると意を決しつつも静かに尋ねた。
「『僕は妹に恋をする』って映画じゃなくて言葉そのものをどう思う?」
「んー、現実的じゃないよね」
「もし…」
「聞きたくないよ、お兄ちゃん」
詩音は思わずゆんを抱きしめた。言わなくても伝わって欲しかった。
ゆんは微動だにせず、一言告げた。
「ダメだよ…」
ゆんは詩音の腕を振り解くと部屋に歩いて行った。
残された詩音はただ、腕と胸に残るゆんの体温を感じながらも打ちひしがれていた。
部屋に戻ったゆんは中から鍵を掛けた。
涙が止まらなかった。本当は受け入れたかった。でもそのリスクと別離を考えるとゆんには無理だった。
ゆんは家族として側にいることを選んだのだ。
詩音が血の繋がらない兄であっても。
詩音は作業部屋に戻り、寝袋の上に寝転がって天井をただぼうっと見つめるだけだった。昨日ゆんのメモを見て、やっとゆんが兄という以上の何かを感じ始めたらしいと喜んでいたのに。詩音はその時をずっと待っていたのだ。
ゆんが血の繋がらない妹だと知った時から。
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