第38話 詩音が決めたこと

朝起きて同じ頃それぞれの部屋からキッチンに向かった二人は母ゆりに驚かれた。


「どうしたの二人とも。目が腫れぼったいし、顔色悪いじゃないの!何かあったの?大丈夫?学校行ける?」


それとなくお互いの姿を見やると確かにひどかった。詩音のまだ整えていないボサボサの髪の毛の合間から見える目は赤く腫れていた。ゆんも生気なく泣き明かしたのが丸わかりだった。


『ゆん…』

『お兄ちゃん…』

同時に声をかけてしまい二人は力なく笑った。

「学校行けるのか?」

「へーき。行くよ」

「そっか。じゃ準備してご飯たべよ」

「うん」


準備を終えてテーブルに着いた二人をゆりは心配そうに見る。


「何かあったの?」

「お母さん、別に何もないよ!昨日ちょっと悲しいドラマ見ちゃったの」

「そう。で、詩音あなたは何なの?」

「一晩中作業してたから」

「そうなの。ふぅん。ま、いいわ。気をつけて学校に行くのよ、二人とも」

しかし二人ともほとんど朝食に手を付けずに席を立ったのを見たゆりは何かがあったのだと確信していた。


「ゆん、先に出てて。ちょっと母さんに話がある」

「わかった」

ゆんはカバンを持つと先に玄関に向かった。


洗い物をしているゆりに詩音は声をかける。

「母さん、俺夏休みの間アメリカ行くから。費用は問題ないし、泊まるところもあるから」

「詩音???ゆんはどうするのよ!」

「ゆんには黙ってて。引き止められたら行きたくなくなる」

詩音はゆんが引き止めることなどしないのはわかっていた。お兄ちゃんの将来のためだもんねと言って寂しがっても送り出すのはわかっていた。

「あらあら。今晩ちゃんと父さんに話するのよ」

「うん。じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃい」

これは完全におかしいわね。困った子たちね。

ゆりは、ひょっとして、こういうこともあるのかもしれないと思っていたことが起こってしまったのかしらと頭を振った。


玄関の外に出るとゆんが待っていた。

「お母さんに何を話したの?」

「大したことじゃないよ」

「ふぅん」

詩音はぎこちなくゆんの手を取る。抵抗されるかと思ったらそれはなかった。ゆんは素直にいつものように手をつないだ。しかしいつものようにゆんがあれこれ話しかけることはなく、無言のままバス停まで歩き続けた。


バスに乗り込むといつものように花梨が声をかけて来た。

「おっはよーお二人さん!」

しかしひと目みて異変を感じ取った花梨は頭の中をフル回転させていた。


な…何が起こったんだこれは。

ちょっと待って。この展開はこの花梨様も想像してなかったんだけど。


「ちょっとーお二人さん、全く会話がないわよ、会話が。元々詩音先輩あんまりしゃべんないけど、ゆんまで無言ってなんなのよ。不気味すぎるわよ」

「そんなことないよー!わたしだって時にはこういう日もあるだけだよー」

「そんだけしゃべれるなら、ま、いっか」


しかし花梨は絶対にこれはこじれちゃったんだなーと思っていた。

だから言ったじゃないの先輩!反省しなさいって!あーあ。ったくほんとに。詩音先輩がそこまでマヌケだったとは。ゆんの気持ちを知らないから無理もないんだろうけど…。でもこれはわたしが口挟んでもどうにもならないこと。だけど、この山奈花梨は何があってもゆんの味方だよ。


教室は休み時間になると夏休みの話題でもちきりだった。

「あーあ、花梨が夏休みバンド計画ボツにしちゃったから、夏休み何したらいいのかわかんないや」

「一緒に夏期講習る?」

「それもありかもね。恐ろしくつまんない夏休みになっちゃうけど。あーあ、何かないかなぁ。せっかくの高校2年の夏休み」

「で、ゆん。昨日何かあったの?」

「別に何もなかったよ」

「うそつけ。先輩と会話ないとかやっといて何もなかったはありえないでしょ」

「んーわたしは妹だよって言っただけ」

「先輩は?」

「わかんない」

「どういう意味?」

「わたしがちゃんと聞かなかったから」

「ゆん…それで先輩今朝どんな様子だったの?」

「目が真っ赤だった。でも朝まで作業したからって言ってた」

「であんたは?」

「朝まで泣いてた。でもだいぶスッキリした」

「うそつかなくていいよ」

「涙と一緒にね、感情も流れるように祈ったの。だから」

ゆんの横顔は寂しそうに見えた。

「ゆん、何か楽しい夏休み計画絶対立てよう!」

「うん!やっぱり花梨だー!大好き!!!」

「じゃまず書いてみよう!そこからやれそうなことやってみよう!」

二人は行きたいところや行ってみたいところ、やってみたいことを紙にがんがん書き出していった。





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