第36話 花梨と修介

「お兄ちゃーん!」


校門の前でぶんぶん手を振るゆん。健気だなー花梨は思う。でも一応落ち着きは取り戻したようだから、しばらくは大丈夫だよね。


いつものように3人はバス停に向かって歩きだす。こころなしか詩音先輩ご機嫌そうなのはわたしの見間違いかしら。ゆんの手つないじゃってるもんな。


「でねーお兄ちゃん、数学の塩田せんせいがね…」

健気すぎて泣ける、泣けるよ、ゆん。


二人の温度差をひしひしと感じる花梨はどうしようかと考えあぐねていた。そこに遠目に天敵高上修介の姿が見えた。えぇい、この際だ、アイツを捕まえて今日は逃亡しちゃおう!


「おーい!!!高上修介!!!!!」


大声で叫ばれた修介は悪い予感とともにぶるっと震えながら声のする方向をみやった。そこには山奈花梨が仁王立ちしていた。


「話がある!!!」

「俺はないぞ!!!」

「暇ならちょっと付き合って!」

「暇なんかないぞ、受験生だぞ!」


ざわざわざわ…

暇なら付き合え?って生意気!!!

あれなんなの?愛の告白?

生意気な2年女子じゃん!

高上君もなに言い返してるのよ!


主に3年女子が非常に険悪なムードに陥っていた。


それをものともせず、花梨は野々村兄妹に告げる。

「あたしちょっとあいつとっちめたいから行くね」

「なんなの、花梨???」

「いいからいいから。それでは本日はここでさらばじゃ」

そして去り際に花梨は詩音に耳打ちする。

「先輩『僕は妹に恋をする』観たことあるんですか?」

「ない」

「ほんっっっとにバカですねー」

「なっっ」

花梨はヒラヒラと手を振りながら修介の方向へ駆けて行った。


「つーかまーえたーぁっとぉ!」

花梨は修介の腕を掴むと周りの視線など気にせずぐいぐい引っ張っていく。

「おいおいおいおい、待てよ、何なんだよ!」

「お願い、今日はわたしの愚痴を聞いて」

「は?????」

「何でもいいから、少しだけでもいいからちょっと話聞いて」

「へっ?????」

「天敵の俺にかよ」

「誰でも良かったんだけど、あんたが見えたから」

「じゃ、他を誘え」

「いいからいいいから。今日はわたしがおごるから。ただし、飯じゃないわよ、どこかゆっくり話せるところで飲み物オンリーね」

「ケチ。まいっか。俺もお前に聞きたいことがあったんだ」


二人は最初の対決の場、駅前のスタバに入り、注文してドリンクを受け取るとの奥の目立たない席を選んで座った。


「お前もほんと唐突だよな」

「人のこと言えないでしょ」

「で今日はどうしたんだよ」

「ちょっとクサクサしちゃっててさ」

「お前でもそんなことがあるのかよ」

「わたしだって人間でっすー」

「ま、いいさ。あ、そうだ俺がお前に聞きたかったこと聞きたい?」

「まわりくどいわね」

「俺同窓会行ったんだわ、中学3年の。そこで詩音が小学生の時めちゃくちゃ可愛かったし、両親も美男美女らしくてさ、今も絶対イケメンなはず!という情報を手に入れた。おまえ、あの不良をやっつけたの詩音って知ってたんだよな?一緒にいたんだからさ。しかし俺はさらにはテコンドーの達人という証拠も掴んだ。レベルアップしたんだ。ふふふふふ」

「バカねほんっとに!」

「でも仮にだぞ、あのキノコがイケメンかつ最強だったとしてもおかしいよな。そこをがっつり消して生活してるんだもんな」

「別にいーじゃん」

「お前、何かイケメンか否かについて知ってることない?」


うわーーーー心臓に悪い、何言い出すの!!!

動揺してるのを悟られてはならぬ、ならぬぞ花梨!


「知らないよ。家に遊びに行ってもあのままだもん」

「ふぅんやっぱりそうか。イケメン説は眉唾ものだな」

「イケメンって正義よね」

「当然だろ、俺みたいに」

「は…あんたが?おめでたい人ね」

「ふふん、みてろよ。明日になったら3年の人気者高上修介を誘拐してった勇気のある2年女子って噂されてるぞ」

「自身満々だね」

「お前が知らないだけさ。へへっ」


やっぱりこいつバカだな。


「あ、そだ。好きになっちゃいけない人を好きになったことってある?」

「あるわけないだろうが!唐突になんだよそれ」

「だよね」

「何なんだよ、一体」

「映画みててさーちょっと考えてた」

「お前不倫かなんかしてんのか?ひょっとしてまさかの援交とか?」

「あーのーねー!映画だって言ってるでしょ!」

「お前くらい口達者だったらおっさんの一人や二人丸め込めるだろ」

「あんたって失礼すぎない?」

「冗談だよ、冗談。でもなんでそんなこと考えてるんだよ」

「んー。ちょっとね。悲しいねって思って」

「確かにな。それってさ、永遠の片想いだろ?死ぬまで片思いでいるしかないんだからな。考えるとあまりにも苦しいな」

「そうだよね」

「ま、それでも突っ走っちゃう連中もいるけどな、世間のお騒がせ不倫カップルとかさ。不倫から始まっても結ばれちゃうカップルなんていくらでもいるだろ」

「んー、他人ならそれでもいいんだろうね」

「何?」

「あ、なんでもないよ。永遠の片想いかー。わたしだったら途中で潰れちゃうな。消えたくなっちゃう」

「お前がか?安心しろ、ナイナイ。お前のそのたくましすぎる耐久力はそんじょそこらのことじゃ潰されやしないだろ」

「わたしだって女の子だよ、そこまで強くないよ。高上修介って本当にそんなんでモテてるの?」

「え、俺なんかダメなこと言った?」

「はぁ。あんたに彼女が出来ない原因わかったわ」

「出来ないんじゃないぞ、作らないだけだ!」


ほんとにアホなんだなー完全出来ないだけだと思うわ。


「あ!思い出した!お前さ、詩音のバスケ見たことないんだよな?」

「ないよ。それがどうかした?」

「土曜日さ、詩音ちの近くにある広場に来いよ」

「はぁぁぁぁ?」

「俺毎週土曜日そこでバスケすることにしたんだ!」

「なんでまた…」

「見に来いよ。多分詩音も来る」

「詩音先輩やゆんに誘われてないのに行かないよ」

「俺が誘ってるじゃん!」

「はぁぁぁぁぁ?」

「な、だから心配せずに見に来い!詩音が何か言ったら、俺が誘ったからお前がここにいるってちゃんと説明するからさ!」


こんな調子で彼女が出来るわけないわ、この人、と花梨は頭を抱えながら修介の話を聞き続けていた。





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