第82話 ゆん、自分の気持を考える

5月下旬、ゆんは詩音からの返信を受け取った。


「ゆん、またお手紙来てるわよ」

そういって由奈はゆんに手紙を手渡した。

「ありがとう」

「文通してるのね?」

「うーん、そうなのかな」

「ふふふ、手紙も良いものよ。面と向かっては言えないことも書けるでしょ?それに、書くときに色々と考えるでしょ?SNSはすぐに返信出来るけれど、それでは伝わらないこともあると思うの。時間差があるからじれったく思うかもしれないけれど、それはその間考える時間もあるということだと思っているの。今の時代の最先端を行く若い人達には笑われるかもしれないけれどね」

そういって由奈は笑った。


受け取った手紙を持って自分の部屋に行き、すぐに封を切った。


読み終えるとゆんはただ泣き崩れるしかなかった。あまりにもストレートな詩音の告白にゆんは泣くことでしか反応出来なかった。


どう答えたらいいんだろう…


自分が思っていたことと、詩音の思いの食い違いもわかった。その時素直に話していればこんなことにはなっていなかったであろうことも思った。そして詩音の思いも、詩音がどれほど真剣だったかも思い知らされた。そのどちらをも受け入れることが出来ずに突き放してしまったわたし…


なさけない、ゆんは思った。

わたしは自分のことだけしか考えてなかったんだなと思った。詩音は自分が思っている以上に戸惑い、悩んでいたんだなと思った。その詩音が選択をしたことを思いやることが全く出来ていなかったのだと。


その詩音がどれほどの思いであのプレイリストを残して行ったのだろう。今になってそのプレイリストに入れられていた曲の歌詞の意味がとてもとても重く感じられた。愛と悩みばかりが込められた曲ばかりだったと思い出す。


そしてゆんはそのプレイリストの曲を今一度きちんと聞いてみようと思った。


聴き込むと、詩音の込めた想いが痛いほどに伝わってくる…詩音の本音を知った今はなおさら。悩みながらも先を祈る、望んでいる、そんな歌詞も多かった。ただ一緒いたいだけと言う気持ちも、また今を予想したような曲もあった。音や曲を作る側である詩音は歌詞は書かないけれど、その詩音がわたしのことを想いながら作ったプレイリストだということを思うとその時思うところはたくさんあったけれど、「聴いたよ」としか返せなかった自分がいかに子供だったかを今思う。「伝わったと思いたい」という詩音の返信に希望をもたせて結局怒りにまかせて拒否してしまった自分。今になって…今聴いて…その気持ちが、心が痛いほどわかる…お兄ちゃん…わたしは…本当にバカな妹だったみたいだよ…


そして、今、痛いほどの詩音の気持ちを知ったわたしはどうすればいいのだろうと考える。


わたしの気持ちは?あの日感じてたあの気持は今…どう?


その答えをはっきりとつかめるまでは返事は書けないと思った。

正直に、ストレートに、隠すことなくずっとゆんが疑問に思っていたことを教えてくれた詩音に対する礼儀だと、きちんと向き合わなければまた詩音を傷つけてしまうと、そう思ったのだ。

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