第83話 人を好きになること
詩音の手紙を受け取ってから、ゆんはずっと考え込んでいた。
「ゆん、最近何か考え事しているの?」
由奈が聞く。
「あ、うん…」
「わたしで良かったら話を聞くわよ?人生経験も長いしね?」
由奈は優しく微笑みながら言う。
「あ、そうだ由奈とレンはどうやって知り合ったの?」
「まだ話してなかったわね。わたしとレンは幼馴染だったの。家が近くて学校もずっと一緒だったのよ」
「ずっと仲良かったんですか?」
「そうね…お互いが何をしているかくらいはわかっていたわ」
「その…それで…いつレンのことを好きだってわかったんですか?」
「そうね…わたしもレンもやりたいことがあったから上京したの。でも東京での連絡先を教え合うことはなかったの。仲が良かった、友達だったと言ってもそのくらいだったのね。わたしはモデルの仕事を大学時代に始めたの。少し使ってもらえるようになってきた頃、ある日撮影に向かったスタジオにレンがいたの。レンもわたしもお互いに凄くビックリしたのを覚えているわ。レンが写真をやりたいと言っていたのは知っていたけど、まさかスタジオで会うなんて考えたこともなかったから」
「それはビックリですね」
「でしょう?その頃のレンは下っ端で、雑用ばかりやらされていたの。わたし達モデルやスタッフの買い出しまでやっていたの。それでもレンは嫌な顔ひとつせずに走り回っていたの。その上、わたしのお弁当にメッセージまで貼ってくれてたのよ。緊張しないで、君なら大丈夫、なんてことをいつも書いてくれていたの」
「素敵…」
「レンのことは昔から知っていたけれど、彼がそんなに優しい人だとは知らなかったの。東京で一人で頑張っている同士というのもあったのかな、その優しいメッセージも嬉しくて、レンと電話番号を交換したの」
「それからどうしたんですか?」
「色々とね、仕事で悩んでいることや、日々あった楽しかったことなんかを話すようになったの。レンはいつも真剣に聞いてくれてね、勇気づけてくれたり、つまらない冗談を笑ってくれたり、レンと電話で話するのが本当に楽しかったの。昔話もたくさんして笑ったわ。そうしているうちに、わたしはこの人が好きなんだなって思ったの」
「レンはどうだったんですか?」
「付き合うようになって聞いてみたら、レンはずっと昔からわたしのことを好きだったと言ったわ。わたしは全然知らなかった。高校を卒業するまでに告白出来なかったから諦めていたんだって。それなのにまた東京で偶然会えたから、この再会を大切にしようと思ったんですって」
「レンって…本当に素敵な
「わたしはどんどんレンに惹かれていったの。モデル業界も色々裏ではあってね…辛いこともたくさんあったのよ。だけど、レンはいつも励ましてくれたの。レンのほうが辛い立場にあったのに。その後のことはあなたに話した通りよ。わたし達、本当にあなたをどうすればいいか悩んだの。それでもわたしは絶対にわたしとレンの子供を諦めたくなかったの。どんな形になっても」
「由奈…ううん、お母さん…」
「ゆん???」
突然お母さんと言われた由奈は驚いた。
「わたしどうすればいいのかしら…」
ゆんは涙が止まらなかった。
ゆんは何度も読み返してくたびれた手紙を取り出した。
「これ…お兄ちゃんが…」
ゆんは詩音の手紙を由奈に差し出した。
「ゆん…これはあなたのものよ」
由奈は受け取ろうとしなかった。
「わたしだけじゃわからないの…このままじゃ返事も書けないの…」
「読んでもいいの?」
「うん…」
由奈はゆんを優しく抱き寄せると言った。
「ううん、でもこれはあなたのものよ。他の人が読んで解決するものじゃないと思うわ」
「でも…」
「うーん、そうね、一つアドバイスをするとしたら、必要のないことは全て脇において、何も考えずに自分の気持と向き合ってみることね。以前持っていた感情と生活する場所が変わった今感じることって同じ?それとも違っているかしら?もしも以前感じていたことが今も同じなら、自分の気持に正直になってもいいんじゃないかしら。好きという気持ちを分けて考える必要はないのよ。好きなら好きなの。単純なことなのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます