第58話 偶然の出会い

エミリーの自宅はカイルのサロンからそう遠くはなかった。

エミリーは自分の家にセシルと詩音を招き入れると言った。

「ほらね、仕事場に持っていけてないものもたくさんあるのよ」

エミリーは様々な服が詰め込まれた部屋を見せて二人に説明する。

「まだ高校生?んーそうね、シンプルに行こうかな」

エミリーはダメージドジーンズを取り出し合わせてみる。

「背も十分あるし大丈夫ね。ぴったりだわ!でもそうね、丈は少し短いのもいいかな。こっちも持っておきましょうか。それからトップスをいくらか用意するわね。トップスで大分印象変わるから、普通なのからちょっとチャレンジャーなものまで。どれも似合うと思うなーふふふ」

詩音は完全に彼女の着せ替え人形になっていた。


詩音はエミリーが選んだ服を試着する。

「ふふふ、シンプルな白いシャツは必須よね。でもこれはちょっとデザインが変わってるの。着こなせる子を探してたのよ。うん、いいわね。それと袖が長めのサマーセーター。真っ白よりもオフホワイトがやっぱりいいわね。大胆な柄のものも一つ持っていこうかしら」

そんなふうに説明しながらこれと思ったものをどんどん詩音に試着させる。試着させてみてエミリーが良いと思ったものはセシルに手渡される。

「いやーいつでもいらっしゃい。この子気に入ったわ。なんでも着こなせそう」

「あなたがそんなこと言うの誰以来だったっけ」

「忘れたわ。でもこの子逸材ね。裏方でいいなんてもったいないわ、本当に。で、撮影は誰なの?」

「レン・テラモトよ」

「うそ…ほんとに???よく抑えられたわね」

「ダメ元でオファーしてみたの。多分、日本人だからオーケーしたんじゃないかしら」

「それだけであの人が?そうは思えないけど、受けてくれたんなら凄いわ」

「ほんとにね。言ってしまえば詩音は一般人なのに。エミリー一緒に来てくれるんでしょ?」

「それ聞いたら行くしかなくなった。簡単なメイク道具も持っていくわ」


テラモトとの約束は午後2時だった。


その前に3人は簡単に昼食をとり、詩音はただひたすらセシルとエミリーの話を聞いていた。昔話をして大笑いをしたかと思うと、最近何をしているかの報告など。詩音はふと思った。こんなふうに話せる友達いないなと。いるとすれば、ゆんだけだ。ずっと二人で生きてきた。もちろん、両親の保護の下でだが、朝学校に出かける前に母には会えたとしても父に会うことはめったになかった。夜も遅く帰ってくる父母にはゆんを寝かしつけたあと会ったり会えなかったりだった。だから自分がゆんを守らなくてはならないとずっと思っていた。いつの頃からか、漠然とゆんのことを妹以上に思っている自分に気付いた。詩音はなんとなく気付いていた。ゆんは自分に似ていない。ゆんは両親にも似ていない。長い間考えていたのだが、正直に言ったほうが良いのだろうと思い、両親に打ち明けたのだ。ゆんのことを妹としてではなく思っていると。中学3年生の時だった。


「詩音?何考えてるの?」

「あ、うん、別に」

「ごめんね、エミリーとは本当に顔を合わすの久しぶりで。大親友なんだけど、エミリーが売れっ子すぎて」

「何を言うのよ。あなたの作品もじわじわ来てるのよ。わたしのまわりでも話題に出てるわよ」

「ほんと?うわーい!」

「素敵ですね、二人とも」

詩音はポツリとつぶやいた。エミリーが聞く。

「ねぇ、詩音、あなたこんな友達いないの?」

「いるとしたら…ゆんだけ…」

「ゆんって妹さんよね?詩音、あなたどんな生活してきたの?」

「ゆんのことだけ考えて生きてきた」

「あら、過去形?」

「意地悪ですね」

「それで。今日この瞬間思っていることって何かしら」

「ゆんに会いたい…」

「もうすぐ帰るんでしょ?今のあなたの姿を見たら驚くわよ。きっと惚れ直す」

「そうだといいけど、これもまた色々あって」

「なんだか面倒なのね。ま、ちゃんと話をしなさいね」

セシルも言う。

「そうそう。ちゃんと話しなくちゃ。悩む前にそこじゃない?」


テラモトのスタジオは郊外にあった。車で30分ほど移動して、約束の時間の前に着くように車を走らせた。


「ここね」

セシルが確認する。

インターホンを押して約束があることを告げる。

若い男性が3人を迎え入れようと出てきた。

「レンの助手のヘンリーです。こちらにどうぞ」

ヘンリーは3人を二階に案内した。

そこは撮影スタジオになっていて、すぐに撮影出来る準備がなされていた。

「やあ、来たね。初めまして。レン・テラモトです」

40代後半、50歳いっていないであろう男性が立っていた。

「こんにちは。セシル・ジョンストンです。無理をお願いしたのはわたしです。受けて下さってありがとうございます。こちらはコーディネーターのエミリー・マクガイア。そして撮影していただきたいのはこの子、シオン・ノノムラ日本人です」

「ハイ、エミリー。久しぶりだね。それから詩音君のことは良く知っているよ。大きくなったね。そしてとてもハンサムな青年になったんだね。会えてうれしいよ」

詩音はびっくりして目を大きく見開く。

「俺のことをご存知なんですか?」

「とても良く」

そういうとレンはニッコリ笑った。

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