第19話 修介の怒りはおさまらず

野々村ゆんが詩音を引っ張って行った後、みなが口々に言ってた。

「だからいっただろ?あんなヤツがバスケ上手いわけないって」

「修介お前おかしいんじゃないの?まさかの奇跡でも期待してた?」

「ないない、ありゃ平均以下だったよな」

「賭けてたら、修介お前大損こいてたぞ」

みな腹を抱えて笑い転げてた。

冗談じゃない。クソッたれ!


野々村詩音。

中学1年のとき同じクラスだった。このとき始めてヤツに出会った。当時から今みたいな風貌で目立たない生徒だった。当時はもちろん野々村ゆんは小学生だったから、その1年間はただひっそりと学校に居たというだけの印象。少し誰かが話しかけるとおどおどと答え、会話は続かなかった。俺も話しかけることはほとんどなかった。


中学2年になるとクラスは違ったが、毎日妹と登下校してるというのは見たり聞いたりしていた。それ以外にヤツの噂が回ることもなく、やっぱりひっそりそこにいるだけの生徒だったようだ。俺もほぼ存在を忘れかけていた。


中学3年になると再び同じクラスになった。相変わらず存在感はなく、いつもひっそり後ろの方の席に座っているだけだった。みんなが話すのは妹が可愛いということばかりだった。しかし、受験シーズンになると俺の興味を引くことがあった。難関進学高校の推薦をあっさりとって余裕で過ごしていたことだ。みなが必死になって受験勉強してるときに、やつはいつものように淡々とひっそりと過ごしていたのだが、推薦確定前も後も他の連中みたいに目の色変えて勉強に必死になる様子は一切なかった。俺自身も同じ学校を目標にしてたから、腹が立って仕方がなかった。俺はこんなに必死なのにって。そこからだ。俺が野々村詩音に興味を持ち始めたのは。


高校1年。俺もなんとか同じ高校に滑り込んだ。クラスは違った。だが、気になる存在になってしまっていたから、ヤツと同じクラスの友達にそれとなく様子を聞いたり、回ってくる噂をもれなくとらえていた。野々村ゆんはまだ中学在籍中だったから、やはりひっそり存在感なしで過ごしていたようだ。勉強は出来るらしいとは聞いた。同じクラスの友達が愚痴をこぼしていたからだ。アイツがクラスのトップらしいと。地味過ぎて友達もいないし、勉強するより他にやることないからだろうなんて言って笑ってた。


高校2年。案の定、野々村ゆんが同じ高校に入ってきた。高校生ともなると、可愛い女子には目がない連中が多いわけで、野々村ゆんは当然すぐに話題になった。が、常にべったりひっついている奴らがいるからゆんに近づくのは無理だとすぐに失望した連中が大勢いた。一人はもちろん兄貴である野々村詩音。登下校は常に一緒だ。そしてもうひとり。山奈花梨。クラスではもちろん、登下校も兄妹と一緒だという。山奈花梨は野々村ゆんによってくる男子を切って捨てるともっぱらの話題にもなったことがある。そうして野々村ゆんは守られていたのだ。野々村詩音の様子はというと、何も変わることがなかった。これまでの通り、クラスでもいるのかいないのかという空気な存在のままだったようだ。


高校3年になった。そして再びヤツと同じクラスになった。願ったり叶ったりだ。そうして中学からいままで観察してきた結果、何かおかしいという結論にたどり着いたわけだ。第一、妹があんなに可愛いのに、ふつう兄貴があそこまでダサいってありえないじゃん。勉強できるのに全然目立ちもしないじゃないか。普通ダサかろうがブ男だろうがなんだろうが、勉強出来る人とかなったら一目置かれるだろ?そういうこともない。おかしくね?みんな気づかないのか?


この高校3年の間にあいつが一体何者なのかを暴いてやる。また同じクラスになったとわかったときに決心したわけだ。


とりあえず、昨日の出来事で一つ新しいことがわかった。野々村詩音はスポーツ万能。それをみんなの前で証明したかったんだが…とんだ食わせ者だ。思い返しただけでも腹が立つ!俺が笑いものになっちまったじゃねーか!一体何なんだよ。別にスポーツ出来て悪いことなんて何もないじゃないか。それより良いことのほうが多くね?一体なんなんだよ…しかし、ここで諦める俺様ではない。この何年もの観察力を見くびるなよ。どこかに突破口があるはずだ。

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