第47話 力をくれる友達

まだお母さんにも言えないよ…


部屋にもどったゆんは2段ベッドの上、詩音のベッドにごろんと横になった。

「お兄ちゃんいなくなっちゃったけど、お兄ちゃんを感じられる場所…」

ゆんはつぶやく。泣きながらそのまま寝落ちていった。


次の朝も花梨はもちろんやって来た。すぐにゆんの状態に気がついた。

うつろな目をして、まったく生気がなかったのだ。


「ゆん!どうしたの?また泣いたの?何があったの???」

「ん…お兄ちゃんがね、ロスに行っちゃった…」


そういうと花梨に抱きついてゆんは泣き始めた。


「はぁぁぁ????ちょっとちょっとちょっと…どういうことなの?」

花梨も相当驚いたようだった。

「今日は勉強いいよ、焦らないでいいよ、泣き止むまで待つから、ちゃんと話して?あんただけで抱え込むのはしんどいから。わたしならいくらでも聞くから」

そういうとゆんを居間に連れて行ってソファに座らせた。ボックステイッシュを持ってきて、ちょっと待っててと言うと、ホットミルクを作って運んできた。

「ゆん…大丈夫?」

「大丈夫じゃない…お兄ちゃん、何も言わずに行っちゃったの…」

「一体何がどうしたの?」

「お父さんとお母さんは知ってたみたい…わたしだけが何も知らなかったの…。なさけないでしょ…お母さんは、アメリカの友達のプロジェクトに誘われたって。お父さんは受験生が今やらなくてもいいだろうって言ったんだけど、お兄ちゃんは今しか出来ないことがあるからって…わたしアメリカ行くってお兄ちゃんが直接言ってくれてたとしても、絶対反対なんてしなかったのに。頑張ってきてって送り出したのに…何も言ってくれないなんて…」

ゆんはまた泣き始める。

「ほらほら、ちょっとミルク飲んで?」

「うん…」

ミルクを少し口にするとゆんは話し始めた。

「花梨、お兄ちゃんが行っちゃったのはわたしのせいなの。お兄ちゃんわたしといるのが嫌になっちゃったんだよ…」

「あのねーんなわけないでしょ。あの妹溺愛兄貴が」

「でもきっとそうなの…」


ははぁん。絶対何かあったよね。それで多分先輩逃げたんだろうな。あまりにも珍しい事態だけど。先輩が逃げるだなんて。


「でもでも夏休みの間だけなんでしょ?受験生のくせによくやるわよね、考えられない」

「それほど家に居たくないってことでしょ?ってことはわたしと会いたくないってことでしょ?何も言わずに行っちゃったのってそういうことでしょ?もうどうしていいかわからないよ…」


花梨はそれ以上突っ込みたいとも思わなかったし、頭を切り替えさせようと決めた。


「あのさ、ゆんさ、少し前に言ってなかった?お兄ちゃんにべったりだったから、自立したいって」

「うん、休みに入る前にそういうこと言ってたよねわたし…」

「じゃぁ、そのチャンスだって思うのよ」

「え?」

「だってそうじゃない。兄貴がいないんだから、兄貴に頼ることも出来ないわけでしょ?おまけに今の状態だと兄貴の顔色うかがったりビクビクする必要もないわけじゃない。いないんだから。行っちゃったものは仕方ないでしょ?行ったばかりなのに戻ってきてとも言えないでしょ?それじゃ、兄貴がいなくてもゆんがやりたいことして過ごしてればいい。そうしてるうちに帰ってくるんだから」

「花梨…」

「詩音先輩が帰ってきた時、今みたいにメソメソしてるあんた見たら余計に罪悪感感じちゃうと思うよ?先輩だって向こうで何かきっと成し遂げて帰って来ると思うよ?帰ってきた時に胸張って会いたいでしょ?」

「う…うん」

「それじゃ、いつまでもメソメソくよくよしない!いい?」

「そうだよね…ずっとこんなふうに落ち込んでても何も変わらないよね」

「そうそう。わたしがついててあげるからさ、何かみつけようよ」

「ありがと、花梨」

花梨はゆんを抱き寄せると、あーよしよしと頭を撫でた。


一日ゆんに付き合って家に戻った花梨は「しょうがないな」と言いながらもLINEを立ち上げて、詩音とのチャット画面を出した。


花梨:先輩、ロス行っちゃったんですって?ゆんも知って泣いてました。なんで教えてくれなかったのって怒ってましたよ。でも切り替えるように説得しといたので、先輩が居ない間はまかせて下さい。以上


これ以上説明は要らないわね。一応のご報告よ!


らいん〜♪

詩音:ありがとう。ゆんをよろしく頼む。


返信はやっっっっっっ!なるほど、わたしが何か送ってくるだろうって待ってたのか。時差あるのにさ。ほんとに不器用な二人だな。


ブツブツいいながら花梨は風呂に向かうのであった。

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