第46話 ゆんは隠し通す

ゆんがソファに座るとゆりはゆんの横に座って手を取った。

「詩音はね、ロスに行ったの。夏休みの間だけよ、ちゃんと戻ってくるわ」

「え???どうして?どうして?え????」

「今日のお昼ごろの飛行機だったのよ」

「お母さん、本当にお兄ちゃんアメリカに行っちゃったの?わたし、わたし何も聞いてないよ…何も聞いてないよ、お母さん!!!」

「詩音はね、あちらのお友達のプロジェクトに誘われてたんだって」

「それは少しだけ聞いたことがある…」

「それでね、今しかできない音楽もあるからやってみたいって。お父さんはね、受験生だから今やらなくてもいいだろうって言ったんだけどね」


ゆんはわかっていた。それだけが理由ではないことを。しばらく無言だったゆんはポツリとつぶやいた。


「お母さん…わたしお兄ちゃんに嫌われちゃったのかな…」

「どうして?そんなことないわよ」

「でも…でも…ね…」

「お母さん言ったでしょ?詩音はゆんのことを本当に大切に思ってるって」

「それならどうして夏休みの間中アメリカになんか行っちゃうの?夏休みの間にお兄ちゃんの誕生日もあるんだよ。パーティーしようねって昨日わたし言ったんだよ」

「ゆん、お兄ちゃんにもやりたいことがあるの。あなたを大切に思っていることと、お兄ちゃんのやりたいことは時には同時に出来ないことだってあるのよ」

ゆんの目から涙がこぼれ落ちる。

「どうして教えてくれなかったの、お兄ちゃん…教えてくれてたら絶対反対なんてしなかった。お兄ちゃんがやってること知ってるから、頑張ってきてって送り出した。それなのに何も言わずに行っちゃうなんてひどすぎる…」

ゆんはわんわん泣き出した。

「わたしが悪いの…わたしのせいなの…」

「ゆん、そうじゃないわよ。詩音にも考えがあるのよ」

「わからないよ、わからない。お兄ちゃんが何を考えてるのかゆんにはわからないよ!!!」


ゆりは優しく肩をだくとゆんがひとしきり泣き止むまで待っていた。


「お母さん…お兄ちゃんの好きとわたしの好きは違うの…わからないけど多分そうなの…」

「ゆん、まだわかっていないのね」

ゆりはただそれだけ言うとゆんの涙を拭った。


ゆりと健は押し付けることなく詩音とゆん、二人で解決することを望んでいた。だから、ゆんに敢えて自分たちからは何も言わずにおく決心をしていた。ただ、ゆりと健はすでにゆんが事実を知っていることは知る由もなかったのだ。そのため、ゆんが家族にこだわっているということに気付いていなかった。

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