第45話 夏休みが始まった

夏休み一日目。

昨日のことをいつまでも考えていても仕方ない。目が覚めてゆんはまず思った。せっかくの夏休みだし、楽しく過ごさなきゃ!お兄ちゃんとも気まずくならずに過ごせたらいいな…


いつもより数時間遅く起きたゆんは、花梨は何時頃くるかななどと思いながらキッチンへ向かった。キッチンにも居間にも誰もいなかった。あー、遅く起きたからお母さんもでかけちゃったんだ。お父さんはいつものように接待ゴルフか仕事だよね。机の上にはゆりが残したメモが簡単な食事と一緒に置かれていた。


今日は少し早く帰れそうだから、帰ったらいっしょに夕食とりましょう。

母より


うん、そっか。お母さんといっしょに夕飯食べるの久しぶりだなー。楽しみにしてよっと!


お兄ちゃんは何してるんだろう。ゆんは詩音の作業部屋に向かった。

コンコン

ノックしても返事がない。ドアノブに手をかけるとドアが開いた。詩音はいなかった。

「あれ?お兄ちゃんどこに行ったんだろう。コンビニにでも行ったのかな?」

ゆんはそう思ってキッチンに戻って食事をとることにした。


食事を終えたくらいにチャイムが鳴った。

インターホンのモニターを見ると花梨だった。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった!」

ドアを開けて花梨を招き入れる。

「とりあえず、早めに宿題終わるように頑張ろう!」

「わたし達って真面目だよね」

「ほんとにね」

二人で顔を見合わせて大笑いした。


ゆんの部屋に備え付けられている机は長いので、二人が座ってノートや教科書、参考書を開いてもまだまだ十分なスペースがある。


「この机いいよね。一緒に勉強してるの?」

「ううん、お兄ちゃんは作業部屋と呼ぶ部屋にこもりっきり。勉強教えてって言ったときと寝るときだけここの部屋にくるの。だから実質わたしの部屋だよ」

「まだ二段ベッドの上と下で寝てるのあんたたち?」

「んとね、最近はそうでもなくて。お兄ちゃん作業部屋で寝てるみたい」

「あー気にしてんだ」

「…だと思う」

「ところでそのお兄ちゃんはどうしたの?」

「なんか出てるみたい。そのうち帰ってくると思うよ」

「そっか。とりあえず今日はこのあたりまでやっつけちゃおう!」

「うん!」


その後数時間二人は真面目に宿題をやっていた…もちろん時々雑談が脱線したりもしながら。花梨が語っていたのは主に高上修介とのやりとりだった。

「ゆん、心配しないで。アイツのことはあたしがこれからも見張っとくから」

「見張っとくって…無理してない?」

「いやーからかいがいはあるんだわ。ちっとも苦じゃないのよね。逆に面白くって」

「珍しいね、花梨がそんなこと言うなんて」

「なんかよくわかんないけど、毎週土曜日のバスケ見に来い、その後一緒にダベろうぜみたいなことは言われたわ」

「ぶっっっっ、そ、それって?」

「あいつアホだから深い意味はないよ。単に詩音先輩のこともっと知りたいらしい」

「どうして???お兄ちゃんのこと知りたいって何???」

「この話はここまで!」

そんなやりとりを合間に続けながら目標のページまでこなすと二人はノートを閉じた。


「さて、と。夏休み一日目。今日は何する?」

「体動かそうよ、ボーリング行こう!」

「お!いいね!夏休み入ったから人多いかもしれないけど」

「時間あるから待っても大丈夫じゃない?」

「だね、だね!行こう行こう!」

二人は出かけて行った。


ゆんが帰宅したのは午後8時頃だった。

「ゆん、帰ってきたの?」

「あ、お母さん本当に今日は早かったんだね」

「さっき帰ってきたところよ。どこに行ってたの?」

「花梨とボーリング行ってた!」

「ふふふ、そうなのね。楽しかった?」

「うん!久しぶりだったから二人ともガーター連発で笑っちゃった」

「それは面白かったでしょうね。ふふふ。じゃ、一緒に料理でもしましょうか。荷物を置いて着替えて、手を洗ってきなさい」

「はーい!」


着替えてキッチンに戻るとゆりが言った。

「餃子を作るから、これを餃子の皮に包んでちょうだい。ちょっと食べるの遅くなちゃうけど大丈夫よね?」

「うん!たくさん作って冷凍しておけば、好きなときに食べられるし。焼餃子もいいけど、水餃子も食べたいし!」

「よくばりね」

二人は仲良く作業を続けた。


久しぶりに母と夕食をとるゆんは嬉しくて色んな話をしていた。いままで顔を合わせて話が出来ていなかったあれやこれや、学校でのこと、週末のこと、花梨の武勇伝、詩音のバスケの話、次から次へと話したいことが出てきた。ゆりは笑いながら、時には質問したり突っ込んだりしながら楽しそうに聞いていた。


「あーお腹いっぱい!お母さん食べると楽しいし美味しさ倍増だね!」

ゆんはご機嫌だった。

「いつも食後はお兄ちゃんとコーヒー飲むの。わたしが作るね!」

ゆんはコーヒー豆をセットしながらゆりに聞く。

「あ、そうだ、お兄ちゃん朝からいないみたいなんだけど、まだ帰ってきてないの?どこか出かけてるの?」

「コーヒーが出来たらこっちのソファに来なさい。ちゃんと話をするから」

「何なのお母さん?」



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