第90話 詩音とジェレミーの計画
詩音はジェレミーのメッセージの返事をしなければと思いだした。
「あーなんかモデルの件のインパクトでかすぎて忘れてた。起きてるかな」
詩音はFaceTimeでジェレミーにつないでみた。
「お!詩音!待ってたんだぞ!」
すぐにオンラインになった。
「それで例の件どうする?」
「受けていいよ。でもよくあの曲見つけたね」
「あれいつ録音してたんだよ」
「あ、ちょっとあれだけはみんなが居ないときに」
「あれさ、ゆんへのメッセージだろ?いいのか?他人が使っても」
「いいんだ。ゆんへの曲はまた書けばいい。今は良い曲だと思ってくれた人がいることのほうが嬉しい」
「おお、じゃ、早速連絡しておくよ」
「ジェレミー、話があるんだ」
「なんだよ?」
「Into The Caveって知ってる?」
「知ってるよ、俺もよく買うし着てるぞ」
「実はそこが有名時計ブランドとコラボするんだけど、なぜか俺がモデルに抜擢されちゃったんだ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ???」
「例のレン・テラモトのところで写真みた人が推薦しちゃったらしくて」
「まぢかよ、そんなことになっちゃてたのかよ。でお前どうするんだ?」
「色々あって結局受けることにした」
「はぁぁぁぁ????まぢか???」
「うん、それで条件出したんだ。モデルで食ってく気はないから今回単発。それと、プロモビデオなんかで音楽が必要な場合は全部俺にまかせてくれと」
「あっちはのんだのか?」
「もちろん」
「ええええええ。お前大物だなすでに」
「それで、音楽制作の依頼が来たらジェレミーにも手伝って欲しくて」
「いいのか?」
「Into The Caveの人たち、ジェレミーのことはもちろん知ってたよ」
「詩音。ぶっちゃけていい?俺、お前と組みたいと思ってるんだ。半年ちょいお前をうちに置いて一緒にあれこれ作業してただろ?めちゃくちゃ面白かったんだ。うちには協力してくれる人間も多いけど、常駐で一緒にやってくれる人物がまだ固定してなくてさ。もちろん一緒にやることになったら、きちんとクレジットもするし、平等に扱うよ。どう?」
「願ったりかなったりだよ。俺、今UCLAに留学しようと思ってて、色々準備中なんだ。受かるかどうかわかんないけど」
「あー確かに留学生は超エリートじゃないと難しいとは聞いてる」
「Into The Caveの件受けたのは、そこの社長も日本支社の責任者もUCLA出身ってのもあるんだ」
「ほほーさすがだな。それも利用したいと」
「そのくらい図々しくないとやってけないんでしょ?」
「確かにそうだ。純粋に製作だけでは食ってけない世界だ」
「ジェレミー、俺がUCLA受かったら雇ってくれる?」
「雇うんじゃなくて、共同経営、共同制作者だ。もちろん、個々に作った曲などは別クレジットにするし。ただ、もっと面白いことやりたいんだ」
「乗るよ。ジェレミーとセシルが居なかったら俺潰れてたから、お返しもしたい」
「嬉しいこと言うねー!じゃ、これについてはゆっくり話しようぜ。Caveの件は何か進んだら連絡してくれ」
「わかった」
「詩音、頑張れよ。とにかくこっちに来い」
「うん、行けるように頑張るよ」
詩音はゆんのことはあるものの、そのゆんのためにもその先に進めそうな気がしてきた。
そして、正直に書いた手紙がちゃんとゆんの心に届くよう祈るばかりだった。
Into The Caveの本社も詩音がオファーを受けたことに沸き立っていた。特に社長のジェフリー・ミケルソンはしてやったりとほくそえんでいた。日本支社のニールから、詩音がUCLAに留学を希望していることも聞いた。音楽制作についてもあのジェレミー・ウェストウッドの元でしばらくやっていたことがあり、音楽が必要な場合はやらせてくれという希望にもニンマリしていた。凄い大物が引っかかったぞと。今回の単発と言ったらしいが、うちの専属にしたいと考えていた。
「コラボの件なんだが、リリースは来年の春だ。しかしすでにギリギリの日程だ。8月上旬には撮影を終えて欲しい。その線で調整してくれ」
ジェフは直属のスタッフに伝える。
「条件は全てのむように。レン・テラモトのような大物がうちみたいな新興アパレルの広告に協力してくれるなんてこともめったにないことだ。先方の要望もきちんと聞くように。日本での撮影日程が決まったらすぐに知らせてくれ。自分も日本に行くつもりだ」
ジェフのスタッフはびっくりしていた。社長が直々に?日本まで行くって?
若くして起業し、若者の間でトレンドとなっているアパレルメーカーの社長は一筋縄ではいかない男だった。常に頭の中にアイデアが浮かんでおり、多少無理なことでも実現させてしまう。面白いことを常に追い求め、周りを巻き込んでしまうという人物だ。その人が見込んだ男というのは一体どんなやつなんだ?本社スタッフも戦々恐々として状況を見守っている有様だった。
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