第61話 詩音の思い

それを聞いてレンは驚いたようだった。

「本当にゆんは知っているのかい?」

「そうとしか考えられなくて。母さんが言うには知っているようだと」

「そうか…」

レンは俯いて何かを考えているようだった。

「俺の話をしてもいいですか?」

詩音は言う。ここで会ったのも何かの縁だとレンは言った。そして事実を話してくれた。自分が何故ロスに来たかを話すべきだと思ったのだ。

「俺がこっちに来たのは…ゆんと距離を置いてみようと思ったからです」

それを聞いてレンは顔を上げ、眉をわずかにひそめた。

「俺はずっとゆんが可愛くて仕方なくて、両親が忙しいのもあって、俺がゆんを守らなければと思って今までやって来たんです」

「それなのに何故なんだい?」

「俺にとってはゆんが全てで、ゆんさえ居れば良かったんです。だから、わざとダサい外見で目立たないようにして、学校でもいるのかいないのかという状態で生活してました。もちろん、そんな存在でもゆんにとっては最高の兄であろうと、勉強もスポーツも密かに頑張ってました。誰にもゆんと俺を邪魔して欲しくなかったから」

「なるほど」

「そうやって生活しているうちに、俺はゆんのことを妹というだけではない感情で見ている自分に気が付いて愕然としたんです。妹なのにと」

詩音はそこで一度話を切ると深呼吸する。

「ゆんが自分にも両親にも似ていないのは思っていました。不思議でした。中学3年生の時に両親に自分の気持ちを打ち明けたんです。マセたガキですよね。でもこのままじゃダメだと思って。すると両親はゆんは血の繋がらない妹だと俺に言ったんです。そして本当にゆんのことを想っているのなら、任せると。反対はしなかった…」

「そうか。それで君は知っていたんだね」

「はい。俺の気持ちと本当のことをその時が来たら俺自身で伝えると約束したんです。でもバカな俺はそれが出来なくて、ゆんを傷つけてしまったのかもしれなくて…少しパニックになってました。その前からロスに来ないかと音楽仲間のジェレミーに言われていたんだけど、ちょうど夏休みに入るのを口実に、受験生であるというのも無視してここに来ることを決めてしまったんです」

「そうだったんだね。それでゆんと連絡は取っているのかい?」

「お互いにうかがいながらという感じで」

「そうか。日本でも僕の妻がゆんに明日会うだろう」

「明日なんですか。俺の誕生日…」

「明日が誕生日なのか」

「19日です。18になります」

「そうか。今日のフォトセッションは良い記念になるといいな。それにしてもなぜ外見を変えようと思ったんだい?」

「こっちに来てジェレミーやセシル、スタジオのみんなと話していると、なんだか自分の意固地なこだわりがバカらしくなったんです。いや、バカらしくとまでは言わないかな、それはそれで正しかったとは思っているから。でも、ひょっとしたらどうでもいい事なんじゃないかなって思ったんです。元々こんな顔なんだし、それがバレたとしても、俺とゆんが変わらなければそれでいいと」

「ゆんには君の気持ちを伝えたのかい?」

「とても下手な方法で」

「伝わったのかい?」

「多分。ゆんだから…。ただ、ゆんは俺のことを兄だと言い続けていて…それで…」

「そうだったのか。この事を妻に話しても?」

「いいえ。ゆんが自分で尋ねると思います。そうすると思います。もし、少しでも俺のことを好きでいてくれているのなら」

「わかった。君の気持ちは良くわかった。ありがとう。ゆんのことを本当に大切に想っていてくれて。ゆんは君に守られて幸せに大きくなったんだね」

レンは遠くを見つめて今年会うことの出来ないゆんを思った。

「君の写真で一番良いものを明日届けよう。残りは後でゆっくり現像させてもらうけど構わないかい?」

「そんなに急がなくても。俺はまさか写真まで撮られるとは思ってなくて…」

「僕が君にあげられる唯一の誕生日プレゼントだからね」

「ありがとうございます」

「詩音君、せっかくこうして会えて腹を割ってはなせたんだ。これからは何でも気軽に連絡してくれると嬉しい。もっと他のことも話したいね」

「問題ないのであれば。両親にも話します」

「うん、そうしてくれたまえ」

二人は自然に手を差し出し握手をした。

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