第79話 詩音の手紙(4月)
「ゆん、ゆん?手紙が届いてるわよ!」
ゆんは由奈の呼びかけにビックリした。
「手紙?わたしに?」
「ええ」
「おかしいな、花梨はLINEで毎日連絡してるし…」
「差出人は書かれていないけど、確かにここの住所で、To. Yun Teramotoって書いてあるわ」
そういいながら、由奈はゆんに届いている手紙を見せる。
その封筒を見た瞬間ゆんにはわかった。その字はお兄ちゃんだ…その封筒もお兄ちゃんでしかない…
ゆんは震えながらその封筒を受け取った。
「ありがとう…」
「誰からだかわかっているのね?何も聞かないわ。ゆっくり読んでみてね」
そう言うと、由奈はゆんを残して別の部屋に去っていった。
ゆんは受け取った封筒を持って自分の部屋に入った。そして鍵を締めた。誰にも邪魔されたくないと思ったのだ。
ゆんの震えは止まらなかった。封筒を開いて読んでいいものか悪いものなのかも判断がつかなかった。
「どうしよう…どうすればいいの…」
しかし、受け取った封筒はゆんの手の中にあった。捨ててしまうことは選択肢の中にはなかった。読まなければならないという気持ちが大きかったものの、しかし、もしも書かれていることが絶望的な内容だったらどうしようという気持ちがどうしても捨てきれず、手にした封筒をただただ見つめるばかりだった。
今ではとても懐かしい文字。忘れるはずなんてない。いつも隣で一緒に勉強を教えてくれていた詩音の文字だ。勉強も得意な詩音にいつも試験勉強を手伝ってもらっていた。その文字が封筒の上に見て取れるのだ。
ゆんはうろたえながら引き出しを開いてハサミを探した。ハサミはすぐに見つかった。ハサミを手に取ると、震えながら封筒の端を切った。そして中から便箋を取り出す。一体どうして…そう思いながら便箋を開いた。
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寺本ゆん様
こんにちは。初めまして。僕は野々村詩音と言います。
東京に住む18歳の高校3年生です。この時期に18で高校生というのは、去年夏から休学したからです。今、高校3年生をやり直しています。ダサいやつと思われても仕方ないのはわかってます。
今僕がこれを書いているのは、僕が大好きな女の子について聞いて欲しいと思ったから。初めましてなのにおかしいよね?でも僕が大好きな女の子も同じ、ゆんという名前なんです。
僕はずっとゆんと一緒でした。忙しい両親のことを思うと、ほとんど二人だけで生きていたと言っても過言ではなかったでしょう。だから、僕にとってゆんは全てであり、今もそうなんです。でも今ゆんは僕のそばにいないんです。どこかに行ってしまった。とても悲しくて寂しくて僕の心はこの地上にはないと思います。どこか遠くにあります。
ゆんという僕が大好きな女の子はとてもとても可愛くて、彼女を守りたいという思いだけで生きていました。今ではそれが正しかったのか、間違っていたのかわかりません。でもおそらくは僕が間違ったんだと思います。だってゆんはもうここにはいないのだから。
どこで間違ってしまったのかもわかっています。そして僕は僕がしてしまった間違いを今、とても後悔しています。
こんなことを初めましてと最初に書いた君に書くことを許して下さい。
野々村詩音
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