第5話 バスの中で

バス停に到着。同じバスに乗る帰宅部の生徒もチラホラいる。みんなわたし達を遠巻きにして何やらコソコソ話してる。気にならないと言えばウソになるけど、まぁね、お兄ちゃんの負のオーラ凄いもんね。目が隠れるほどの前髪にキノコ頭。ひょろっと背は高いのに常に俯いてる。自分は今165センチくらいだから見上げるとお兄ちゃんの顔が見れるから問題なし。ボソボソ喋る声もちゃんと聞こえる。

「お兄ちゃん、今日の夕飯なに?」

「考えてない。冷蔵庫見てから」

「シチュー食べたいなー」

「一応記憶しておく」

ま、常にこんな感じだ。外では!家の中と外からでは人格がガラリと変わっちゃうんだ。何故だかは未だに分かってない。


バスは軽く混んでる。並んで手すりに捕まって立つ。他校の生徒もいる。いつもこちらに視線を送ってくる他校の男子がいるのは分かってる。しかし、お兄ちゃんの前でニッコリでもして返そうものならあちらが気の毒なことになるから全てスルーする。根性出して話しかけようとしたり手紙を手渡そうと試みるツワモノもほんのたまに居たこともあったけど、お兄ちゃんの負のオーラ全開になってみんなビビって撃沈した模様。わたしはよく知らないんだけど、情報通の花梨によればそうだったらしい。今日もなんだか見られてる気はするけど、お兄ちゃんの機嫌を損ねるとシチューがインスタントラーメンになる可能性もあるのでスルーなのだ!

「で、インスタのイケメンはどのくらい気に入ってんだ?」

「ぶっっ、へ?あ?何、気になるわけ?」

「そのお気に入り俳優とどっちが好きなんだ?」

「教えませーん!」

「ラーメン…」

「あ、いや、インスタのイケメンさんが世界一お気に入りだから(ニッコリ)」

「嘘じゃないだろうな」

「お兄ちゃんにウソつけないのわかってるくせに」

「げほっげほっ」

「まーまー照れなくていいよ」

ぽんぽんとお兄ちゃんの肩を叩く。

いや、完全照れてるなこれ。心なしか顔赤いぞお兄ちゃん。私たち兄妹を知る同じ学校の連中が少々ざわついてる。


え…あの兄がむせてるぞ…

顔よく見えないけどなんか笑ってない?

まさかね、あり得ないよ…

見なかったことにする…


わたしだってビックリしてるんだから!家の中のお兄ちゃんならいざ知らず、感情を出さない外のお兄ちゃんが照れるとか今までなかったんだから!よしこうなればついでに…右手でお兄ちゃんの前髪を少し持ち上げて隠れてた目を見る。あぁカッコいい。

「インスタのイケメンさんが目の前に現れないかなー」

途端にほっぺたを思い切りつねられた。やり過ぎた。反省しておこう。

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