第16話 詩音 VS 修介
バスの中で花梨はずっと誰かにメッセージを送ってた。
「これでよしっと。備えあれば憂い無し!ってね」
「何のこと?」
「何でもないよ、バス降りたらとっとと家に戻るんだよ、いい?」
「花梨ったら、わたしそこまで子供じゃないよ」
「いやーもう兄貴いないんだからさ、とりあえず気をつけて。次のバス停もうすぐだよ」
「うん。お姉さんも今日はありがとうございました」
「いいのよ、同じ方向だし。一緒に帰れて楽しかったわ」
「僕にはお礼ないの?」
「あんたにお礼言う口なんかどこにもないわよ」
「花梨ったら!高上くん、ごめんなさいね、ほんとに口が悪くて」
そしてバスがゆっくり停まる。
「あ、じゃぁ、降りるね。また明日!バイバイ!」
「明日は兄貴引っ張り出してきなよ!あんたのおもりも結構大変なのよほんとは」
「あはははは、ありがとね、花梨!」
バスを降りて深呼吸をする。家に帰ったらお兄ちゃんがいる。何をどう、どこから話したらいいんだろう…
「あー降ります僕も降ります!」
「はぁぁぁぁ???」
花梨の驚きをものともせず、修介はバスがドアを閉じようとするその寸前にバスを降りていった。
やられた!あたしが家まで付いて行くべきだった!花梨は地団駄を踏んだ。でもま、先手は打っておいたわよ。ふふふふふ。何も知らないよりいいでしょ。既読になってたし。今のこともすぐ送っておくから。あとはなるようになるでしょ。ふふっ
ゆんはすでに歩きだしていた。その後ろを小走りで追いついた修介がゆんに声を掛ける。
「ゆんちゃん、ちょっと話でもしない?」
無視。無視するに限る。この人家まで付いてくる気なの?花梨が言ったとおりかもしれない。この人の狙いが何なのかわからない。よし、少し遠回りしよう。決めた。
ゆんはいつもの道と反対方向に曲がって、近所の若者が集ってバスケットボールをする小さい広場に行こうと決めた。そこなら自動販売機もあるし、座って休めるところもある。今日も誰かプレーしてるかな。
だんだん広場に近づくと、数人がプレーしているのが見えてきた。おー、今日もやってるやってる!お兄ちゃんもよくここでみんなと一緒にバスケやってるんだけど、今日はいないよね…まさかね…あれ?ひょっとしてあれお兄ちゃん?体調悪いんじゃなかったの???でも待って。声に出すと後ろの誰かさんに聞かれちゃう。だまってコートの端に腰をおろして見学しよう、そうしよう。
ゆんは広場に入ると自販機に向かった。とにかく何か飲みたかったのだ。スッキリしたかったからサイダーを買って、コートの端に置いてあるベンチに座る。目はずっとお兄ちゃんを追ったままだ。
「あれ、詩音?」
いつの間にか修介が横に座っていた。
無視。無視するんだ。
「体調悪くて休んだんじゃないの?」
無視。
沈黙が漂う。ひたすら気まずい。居心地悪い。
「ねぇ、詩音さ、バスケもなんでもうまいよね。勉強も出来るよね」
無視。
「なんか隠してない?」
「隠すって何を?」
しまった…反射的に返事しちゃったよ…
「ふふーん、何かあるんだね」
「なんにもないです」
「じゃなんで即答したわけ?」
「なにもないからに決まってます」
詩音は修介に気づいていた。なにかやたらゆんに話しかけているのもわかっていた。イラつく。よりによって一番キライなやつがなんでゆんの横に座ってんだよ。花梨から報告は受けていた。だから予想はしてた。ゆんも家まで付いてこられると思ってこっちに回ってきたんだろうな。
「おい、そこのやつ、バスケやんないか?」
「そこのやつはないだろ?中学からの知り合いだぜ?」
「知らなかったよ」
「またまたーそれはないだろ、詩音。ま、いいさ、いいよ、初めてお前が聞き取れるくらいの声で誘ってくれたんだからな。どうする?」
「1シュート1点、5点先取で」
「ちょっとこいつとワンオンワンやるから」
「いいよ、俺達が見てるよ」
「サンキュ」
そうして二人の対決が始まった。
しかし…要するに、修介は相手にならなかった。身長が高く、身のこなしも素早い詩音に修介は追いついていなかった。どの位置からでもあっさりゴールを決められ、すぐに5点入ってしまった。
「ゆん、帰るぞ」
「うん、お兄ちゃん、ただいま」
ゆんは先にお兄ちゃんが声をかけてきたのが嬉しくて、子犬のようにじゃれついていた。
なんなんだよ、あいつら。
修介は何もかもが納得いかなかった。野々村詩音って一体何者なんだ?ていうか、あいつなんなの。おまけに今日はまともに話してるぞ、声出てんぞ。学校でのあの姿は何なんだよ、だけどあいつ初めて見た日からずっときょどってたぞ?ええ?
「待てよ詩音」
「なんか用まだあった?」
「お前、今のその態度なんなんだよ」
「別に」
「学校でのお前は何なんだよってことだよ」
「別に」
「別にじゃないだろう!お前まともに話せるし、バスケだってこんなにうまいじゃないか。なんで学校ではあんなふうなんだよ」
「俺の勝手だろ」
「はぁ?ムカつくやつだな」
「ゆん、帰ろう」
修介を無視して詩音はゆんを伴って歩きだす。
「まさか家までついてくる気じゃないだろうな?」
「けっそこまでするかよ、アホくさい」
「ならいいんだ。じゃな」
「じゃなじゃねーよ、覚えとけ、いつかお前のしっぽ掴んでやるから」
「ご自由に」
憤慨したままの修介をコートに残したまま詩音とゆんは去っていった。
「お兄さん、お兄さん、詩音に勝てるやつ誰もいないから怒りなさんなって」
「みなさんいつも詩音とバスケやってるんですか?」
「よく来るよ。あいつスポーツ万能なの」
「他になにか知っていることはないですか?」
「んーあーあんましプライベートなこと話さないからな」
「でもおどおどしたりきょどったりしてないですよね」
「アイツがか?ありえない、ありえない。めっちゃ好青年だよ」
「お兄さんもまた来るといいよ。教えてあげるよ」
「あ、はい…」
修介の漠然と抱いていた疑問はさらに大きなものとなるしかなかった。
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