第33話 恋する乙女にはならないのだ!?

「ゆん、行くぞ」

「あ、はいはい!」


ゆんは昨日のことは忘れるぞと決心して、できるだけ平常心で詩音に接しようと決めていた。気にするからダメなのだ。いちいち気にしなければやり過ごせるだろうと。しかしそれだけでは心もとない。よし決めた。とりあえず花梨に相談だ。


バスに乗り込むと案の定花梨が即座に「おっはよー!お二人さん!」と声をかけて来た。

「おはよー、花梨!聞いて聞いて、昨日ね、お兄ちゃんがバスケやるところにアイツが来たんだよ」

「アイツって?」

「高上修介」

「えええ???」

「それでね、お兄ちゃんったら自分抜けるから入れってアイツにあとまかせちゃったの」

「先輩、何やってんですか」

「別にいいだろ」

「そりゃ先輩の勝手ですけど、天敵じゃないんですか?」

「んー気に食わないヤツではあるけど」

「先輩ってほんとわかんないお方ですわ」

「あ、ねーねー花梨、あとでちょっと相談に乗ってね」

「うん、いいよー」

ゆんは花梨にこっそり耳打ちする。

「お兄ちゃんには聞かれたくないの」

「ほほーこれまた何なのですわ。楽しみにしとく」


学校の玄関で詩音と別れた二人はクラスに到着した。まだ話す時間はある。


「で、ゆん、なんなのよ?」

「あのね、もうすぐ夏休みじゃない?」

「だよね。何して遊ぶ?来年は遊ぶとか悠長なこと言ってられないから、今のうちだよね!」

「バンドやろう!!!」

ガタガタガタ…花梨は椅子から滑り落ちた。

「ちょっと待ちなさいよ!何言い出すのこの子は!」

「やろうよーやってみたいの」

「あのねー簡単に言うけどね、誰が楽器やるのよ。それに歌だって」

「わたしはベースやりたいから花梨様のコネクションで誰か探して欲しいの」

「無理無理」

「花梨ピアノ弾けるじゃん」

「とりあえず程度だよ」

「やってるうちになんとかなるよ!」

「あのねぇ。あんたまた何を思ってそんなこと言い出してるのよ」

「うー」

「怪しい。怪しすぎる。絶対裏がある。うん」

「だってさ、ずっとお兄ちゃんべったりだったから、自立した妹になるの!」

「はぁぁぁぁぁ???今更何言ってんのよ。詩音先輩が許すわけないじゃん」

「だから!お兄ちゃんの前じゃなくてここで相談してるんじゃないの」

「あんたもバカね。あんたが何やってても先輩全てお見通しよ。それにあんたが先輩から離れられるとも思わない」

「離れるっていうんじゃなくて自立するの!」

「ゆん、あんた熱ある?」

花梨はゆんの額に手を当てる。

「熱はなさそうね。でも実際問題本当にどうしちゃったのよ」

「んーバンドはやっぱり無理?」

「無理無理。せめてカラオケよ」

「ちぇっ。花梨なら乗ってくれるかと思ったのに」

「ゆん、あんた絶対おかしい。お昼と放課後にきっちり聞き出すから覚悟しときなさいよ!」

「やだー何も話さないもん」

「ふぅん」


この花梨様の洞察力の素晴らしさをまだわかってないようだね、ふっふっふっ。花梨はなんとなく察していた。いままでゆんがこんなことを言い出したことはただの一度もなかったのである。


授業中花梨は頭の中で、考えられることを上げてみていた。例えば、先輩がゆんにそれとなくせまちゃった。あるなーこれないとは言えないなー、あるいはゆんが何か思いこんだ上におかしな方向に暴走しかけてる。こっちかな。はぁぁぁぁ。手間のかかるお二人さんだわ。わたしが何年付き合ってると思ってるのよ。んまぁ、問題がないとは言えないけどね。そこはわたしも思うけどね。


わたしが思うに、先輩は絶対ゆんのことが好きだ。兄妹愛じゃないと思ってる。それはクロだとわたしは確信してる。しっぽださないけどね。で、ゆんは?あの子何も考えてなかったと思うわ。それがここ数日で何か起こったとしか考えられない。うーむ。これはゆんから詳しく聞き出さねば。先輩は絶対吐かないだろうしね。ゆんならなんとか落とせるか…

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