第34話 花梨大いに呆れる

昼休み。

花梨はお弁当を持ってゆんをひっぱって誰もいない視聴覚室にやって来た。


「ここなら大丈夫でしょ。教室じゃ誰が聞いてるかわからないもんね。ということで、何があったのか、何が問題なのか話してもらおうじゃないの」

「何もないって!」

「まぁまぁ、とりあえず、お弁当開けよう」

開け放った窓から風が流れてくる。しばらくお弁当を食べていた花梨が口を開く。

「とりあえずバンドは却下ね」

「そんなぁ」

「なんでバンドやりたいと思ったの?」

「んー、家にいる時間を減らしたくて」

ははぁん。ナルホドね。

「昨日の日曜日は何してたの?」

「んっとー、お昼頃お兄ちゃん起こしてそれから一緒にバスケ行って、ショッピングモールのあの不良達に謝られて、高上修介に会って、家に帰ってアイス食べて、一緒に映画でも観る?ってなったんだけど決まらなくて寝ちゃってた。以上!」

「ふーん。それだけでバンドやろう!なの。へぇーふーん、あっそう。それだけでわたしが納得すると思う?ムリダナー」

「むぐぐ…」

「ね、詩音先輩何かしたの?」

「どうして?」

「違うのかー」

「な、なんでそんなこと聞くの?」

「だってあんたの方が何かするとは思えないもん」

「んー」

「何?何?言わないとわからないし、アドバイスも出来ないよ?」

「お兄ちゃんは何もしてない……」

「こともなさそうね」

「う、ううん、してない、してない。お兄ちゃんは悪くない」

「てことはゆんの問題?」

「んーーーーー」

ゆんはしばらくもきゅもきゅとお弁当を食べながら考え込んでいた。

「話したくないならいいけど」

「ねぇ、好きって色々あるよね」

「どういう意味?」

「ペットの子犬や猫が可愛くて好き、この色が好き、家族だから好き、お兄ちゃんだから好き、憧れの人だから好き、とか色々」

「そうだね」

「どの好きか分からなくなっちゃったの」

「詩音先輩のこと?」

「ん…」

「何があったの?」

「これ…」

ゆんはポケットから折りたたんだ一枚の紙を取り出した。受け取った花梨はその紙を開いて目を通す。ははぁ、ナルホドね。遂に目覚めたか、ゆん姫!気付くの遅過ぎ!!!しかし花梨が愕然としたのはリストの最後だった。

「はぁぁぁぁぁぁ???最後の何これ!!!」

花梨は絶叫した。

「花梨、声が大き過ぎるよ!」

「ちょっと待って。これ本当なの?」

「うん…」

やばいっしょ、詩音先輩。いきなりコレはないわぁ。相手はゆんだよ?なに考えてるの…頭痛くなってきた…

「お兄ちゃんがどうしてその映画を持ち出したのか分からなくて。あの映画好きじゃないし」

これはダメでしょ!うわーゆんがせっかく目覚めたところにイキナリこれはない!いくら何でもこんなストレートな…

「あんたがバンドとか家にいる時間減らしたいっての今理解した」

「んー。お兄ちゃん大好きだよ。でも書いてあるように感じるのはいいことじゃないって思うの。家族だもん。お兄ちゃんを異性として見るのはわたしにとっては間違ってることだって考えたらどうすればいいのかわからなくなっちゃったの」

「ゆんはどう感じてるの?」

「…悲しい。素直に喜んじゃいけない自分が悲しい」

「ゆん…」

花梨がゆんを抱きしめるとゆんは声を殺して泣き始めた。

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