第76話 花梨のアイデア

バスケを思う存分楽しんで夕暮れが迫るころになってやっとみんな解散した。久しぶりのバスケは楽しかった。修介も悪いやつじゃない。詩音は今まで自分がどれほど殻に閉じこもっていたんだろと今更ながらに感じた。


片付けを終えた花梨が詩音に話しかけた。

「そうだそうだ!わたしね、ひとつ思いついたことがあるんですけど、言うのすっかり忘れてた!なんでだろ、今思い出した…!」

「なんだ?」

「あのですね、これ今の時代になんだろうって話なんですけど、先輩、ゆんに手紙書いてみたらどうですか?メールとかLINEとかじゃなくて、ちゃんと郵送する手紙。届くのに時間もかかるじゃないですか、返事もすぐ受け取れるわけじゃないでしょ?それにLINEみたいに短い文章よんでカッとなって返信しちゃうとかもないでしょ?書くのにも時間かかるから、考えながら書けるだろうから、今まで言えなかったこととかも伝えられるんじゃないかなって思ったの」

「手紙…か」

「そうそう。文通すればいいんですよ。いやー高校生のわたしが何こんな前時代的なことを言ってるんだかよくわかんないんですけど、ふと思いつたんですよね、少し前に」

「なんて書けばいいんだ…」

「あのですね、それでですね、考えたんです。えっへん。もういっそ自己紹介から始めたらどうですか?ゆんは今、寺本ゆんじゃないですか。だから、はじめまして、寺本ゆんさん、僕はこういうものですって書き出せばいいんじゃないですか?」

わたしって天才か、花梨は一人でニンマリする。

「あーなるほど」

「ね、どうです?もういいかげん二人とも素直になってって思ってるんですよ、わたしは。どこでどう間違っちゃったのかわかんないけど、もう半年以上立ってるのに二人とも全然後ろ向きなんだもん。それに手紙だったら、何かちょっとしたものを一緒に送るとかも出来るじゃないですか。考えようによっては色々使えますよ」

「…なるほどね」

「もう、あれですよ、とにかく気持ちが伝わればいいんだから、かしこまったレターセットもくそも要らないと思うし。いつも使ってるノートにでも書いてちぎって送ればいいんですよ。飾らない先輩の気持ちを書けばいいと思います。それで返事してこないようだったら、わたしがゆんをとっちめます。約束します。だから、ダメ元ででも何ででも試してみませんか?もうこれくらいしかわたしにも思いつかないですよ」

「ん…そうだな…手紙…か…考えたこともなかった」

「でしょでしょ?すぐには無理かもだけど、考えてみて下さい」

そう言うと花梨は修介と一緒に帰っていった。


手紙、か…手紙なんて書いたことあったっけ?記憶にないかもしれない。家まで歩きながら詩音は考える。確かにLINEだととっさに反応して返してしまう、メールは味気ない。手書きの手紙か…。それはいいとして、何を書けばいいんだ?詩音は考えながら家に戻った。

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