第111話 ゆんと詩音、離れていても

レンと写真を選ぶ毎日が一段落した。


ゆんはずっと気にかけていた詩音からの返事を早くかかなくては、と頭の隅でずっと思っていたものの、レンに頼まれた写真を選ぶという作業は遊びではないことはよくよくわかっていた。とにかくそちらに集中していたので、まだ返事を書けていないのだ。


しかし、と思う。レンから聞いた伝言はとても嬉しくて、素直にもう一人で悩まなくてもいいんだ、とホッとした。ここで待っていればお兄ちゃんは来てくれるんだ、と思うと今まで感じていた不安はどこかに飛んでいったようだった。


「ほんとうはすぐにLINEでも送りたかったけど、わたしがこっちに来て前のアカウントは使えなくなっちゃってるから仕方ないな…」


もちろん、詩音のLINEアカウントは覚えている。だからただアプリケーションを入れて友達申請すればいいだけの話だ。詩音はゆんの今のアカウントを知らなくてもゆんは詩音のアカウントを知っているからだ。しかし、詩音は手紙を書くからと言う。それならそれに従おう。ゆんは思う。何か緊急事態が起こった場合は花梨に連絡すれば必ずお兄ちゃんに伝わるというのはわかっていたからだ。


それに、簡単にやりとりのできる手段で自分の本当の気持ちを伝えたくはなかった。実際に会ったときに、目の前で自分の口から伝えたいと思う。


今度会ったら、好き以上の気持ちをちゃんと伝えたい。ただ抱きつきたい。抱きしめて欲しい、そして同じ気持ちならキスくらい…


「あーダメダメ!何を考えてるのゆん!」


ゆんも年頃だ。ルーシーや彼女の友達に聞いた話がうぶなゆんにとってはいささか衝撃でもあった。もちろん日本にいたころもそういった話を聞かないではなかったものの、自分に当てはめて考えたことはなかったのだ。


「ただただ好きなのに、それ以上のことも考えなくちゃならないのかな」


ゆんはブツブツ言う。


「でも…お兄ちゃんなら…」


ゆんもすっかり恋する乙女なのであった。


ゆんはレターセットを取り出した。

素直に、いつわりない気持ちを届けたいと、そう思いながらペンを取った。


一方詩音はレンに伝言を頼んだものの、返事が来る気配がないので少し心配になっていた。


「待っていてというのは負担だっただろうか…」


しかし今はこれしか言えない自分の立場だ。とにかく、留学出来なければゆんを迎えに行くことすら出来ない。元々かなり前から考えて準備はしていたらから成績や英語の面は大丈夫だと思っているが、確証はない。しかし、なんとかなるだろうと思ってもいた。ジェフも推薦状を書いてくれると言う。これは素直にありがたいと思った。


「必ず行くから」


あの撮影の日、レンがゆんの手紙を渡してくれて、それを読んだときの気持ちを思い出す。ゆんがただただ自分のことを好きだと伝えてくれたのだ。あれほどシンプルに好きをゆんが伝えてくれるとは思っていなかった。だから心が震えたのだ。


詩音もゆんもわかっていた。本当に伝えたいことは会ったときに。お互いにそう考えている。だからこそ、その時までに出来ることをちゃんと準備しようと考えていた。


「ゆんがいなくても生きてはいけるんだろう。わかんないけど。でもこれだけ寂しくて虚しい毎日はごめんだ…今それを毎日痛感してるよな、詩音。ここでダメになるようなやつじゃないよな?」


自分に言い聞かせる。


「ゆん…早く会いたい…うまくいってもまだ半年以上かかるな…」


詩音は天井に貼り付けてある二人で撮った写真をみつめ、ゆんが夢に出てくるといいなと思いながら布団をかけ直した。

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