第112話 花梨の気持ち
夏休みの間、修介はアナウンサー講座に通いつめ、時間があるときは花梨の勉強をみていた。たいてい落ち合うのは公立図書館だった。
「ほらここ。間違ってるぞ」
「え、なんでなんで?」
修介は実は成績も良く、今も大学でもいいところを行っている。
「凡ミスだな。ちょっと問題の言い回しが癖あるんだよ。でもそれを抑えられてたら焦ることはないよ」
「そうなんだ。うん、わかった」
花梨は再び問題を読んで解いてみる。
「そうそう。それが正解」
「修介の説明わかりやすくてほんとありがたい」
「だろ?」
「調子に乗らないで!」
花梨はピシャリと言う。それでも修介は楽しそうだ。
「ね、この後一緒に御飯食べに行かない?」
「誘ってるの?」
「もちろん」
「うん、いいよ」
そして二人は勉強した後お腹を満たそうと修介が店に向かう。
「あ、詩音も呼んでるから」
「はぁ???」
「詩音がここで食べようって」
「どうなってるの?」
「どこかご飯食べるのにいいところないかなって詩音に聞いたんだ」
「出不精な詩音先輩に聞くなんて、無駄なことするわね」
「そしたら意外なことに、ここがいいよって返事が来てさ、じゃ詩音も来ればって言ったんだ。詩音が知ってる店みたいだったから」
「ほほー。詩音先輩ヲタまだ降りてないんだ」
「違うぞ、今は友達だぞ」
「ほほー。それも今晩確かめるわね」
「あのなぁ。俺のこと信じてないの?」
「修介だもん」
「それが返事かよ」
店の前までくると詩音が立っていた。
「よ、詩音!来てくれたんだな!」
「うん、もう連絡してあるからすぐに食べられると思うよ」
「きゃー!!!詩音先輩!ほんとに美味しいご飯ですか?」
「もちろん。じゃなければ推薦しないよ」
「ふふふ。楽しみ過ぎます」
「花梨、俺はどうなんだよ…」
「修介はグッジョブてことで」
花梨はニコニコしながら店に入った。
「よ、来たな」
店の大将は詩音を見て言う。
「本当に友達いたんだな」
大将は面白そうに笑う。
「この二人だけですけど」
「わははは。それって普通じゃないぞ」
大将はひたすら笑い転げていた。
「あ、あの、でもホントなんですよ。詩音先輩まぢでいままで地味だったんで」
花梨が言う。
「それは後でゆっくり聞くよ。適当に準備したんで食べてくれ」
大将は用意していた料理を3人の目の前に並べる。
「うわ!!!!!めちゃくちゃ美味しそう!!!」
花梨は遠慮なくそう言うと、早速がっつく。
「花梨、あのなぁ…」
「無駄なこと言わない!めちゃくちゃ美味しいよ!!!」
花梨につられて修介も箸を進める。
「うわ…!!!!!」
「大将さ、ここに有名なアナウンサーも通ってるって話してよ」
詩音が言う。
「は???」
修介がビックリして詩音をみつめる。
大将は意図を察して言う。
「色々来るよ。うちの飯と酒が気にってるなら誰でも大歓迎なんだけど、そういう職種の人も来るよ」
詩音は大将と目で合図する。
「君はアナウンサー志望の友達かい?君もなかなかの男前だな」
「あ、ありがとうございます。はい、アナウンサー志望です」
「コネが効くがどうかは知らないけど、体験談とか聞きたければ時々ここにくるといい。だれかいたりするからね」
「え、あ、僕なんかが来てもいいんですか?」
「もちろんだよ。若い人が来るのも大歓迎。そこのお嬢さんもね」
「わたしもいいんですか?」
「詩音の友達だろう?それなら大歓迎だよ。ただし未成年は食べるだけな。酒は出さないぞ」
「もちろんですよ!ありがとうございます!」
修介は目を輝かせながらお礼を言う。
「で、どうして詩音と知り合ったんですか?詩音がこんな店を知ってるとは思いもしなかったから」
「あぁ、レンが連れてきたんだ」
「あ、ゆんのお父さん」
「そうそう、レンとは大学の頃からの友達でな、悪いときもいいときも知ってるんだ。今も日本に来た時は寄ってくれるんだが、こないだ詩音を連れてきてビックリしたんだ。まさかレンがこんな若い兄ちゃんを連れてくると思わなかったし、えっらいハンサムだろ?一体何がって思ったら、娘を預けてた先の兄貴だっていうじゃないか。それも驚いたんだがな」
大将はもちろん、撮影のことは伏せておくくらいには気がきく人物だった。そういった業界の人間も常連客にいるからだ。
「でしょ!詩音先輩今はこんなに素敵ですけど、前はほんっとに地味で目立たないようにわざとしてたんですよ。今じゃ寄ってくる女の子が後を絶たないからわたしが全てなぎ倒してます。ふふん」
「頼もしいお嬢ちゃんだな」
大将は大笑いする。
「だって!詩音先輩はゆんのことしか見えてないんだもん。で、ゆんはわたしの大親友だから、先輩を守るように仰せつかっておりまして」
「は?ゆんから?」
詩音は目を丸くする。
「そうだよ。ロスに行っちゃう前に、わたしと修介をゆんの家に呼んだの。そのときにゆんがお目付け役頼むって。それを忠実に実行しているわけですよ。えっへん」
「そうか、ゆんに頼まれてたのか」
「あたりまえでしょ。でもま、放って置いても先輩が他の女になびくことは天変地異が起こってもないと思いますけどね。まぁ、そんなことがあったらわたしが許しませんし」
「おー怖い怖い」
大将はひたすら笑っている。
「いい友達だな」
大将は言う。
「うん、花梨のおかげで本当に色々と助かってる」
「またまた、殊勝なことを言っちゃって」
「ほんとだったら」
「ま、先輩にはわたしも感謝してますよ。だって修介に出会えたの先輩のおかげだもん。まぁ、元々の理由がすごかったけど」
花梨は笑う。
「何言ってんだよ!」
修介は花梨を睨む。
「修介ったらね、詩音先輩が怪しいってずーっと観察してたんですよ」
「なんだいそれは」
「あんな地味で目立たないカッコしてているんだかいないんだかなのに、成績はトップだし、おかしい、なにかあるってずっと思ってたんですって」
「鼻が効くじゃねぇか」
「今考えるとそうなんですけど、最初はバカかなって思ってて」
「花梨…それ以上言うと怒るぞ」
「それで最初はわたしがガツンと懲らしめたんですよ。でも何度も話をするようになって、わたしのそのまんまでいいし、一緒にいると楽しいし、恋だの愛だのはその時はわからなかったけど、一緒にいるのいいなって思ったんです。考えてみればわたしっていつも言いたい放題なのに、ちゃんと聞いてくれるんですよね。そんなのそれまでゆんと詩音先輩しかいなかったし。修介といると本当に楽しいんです。ゆんがいなくなて寂しいのは変わらないけど、修介がいるから大丈夫なんだよ」
花梨はニッコリ笑ってそう言った。
修介は感激して涙目になる。
「ほらほら、泣かなくていいから。そういうとこも嫌いじゃないよ」
「初めて聞いた…花梨がそう思ってるって…」
「だから、わたしから好き、付き合ってって言ったし、今は同じ大学に入ろうと頑張ってるんじゃないの」
修介は花梨にがばーっと抱きつく。
花梨は真っ赤になって照れる。
「ひ、人がいるんだからね…」
「花梨が真っ赤になってるの初めてみた…」
詩音はびっくりしながらも、嬉しそうに見ていた。
「いい友達だな、詩音。この二人、妹とも仲いいんだよな。大事にしろよ。俺とレンみたいに長く付き合える友達でいろよ。さぁ、全部平らげちゃってくれ。ほらほら」
大将は3人に食べるように促した。
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