第113話 詩音手紙を受け取る
「あ…」
学校から帰ってポストを除いた詩音はゆんからの手紙が入っているのに気付いた。二学期が始まって数日過ぎた頃だった。
相変わらずこの時間に家に戻っても誰もいない。
詩音ははやる気持ちを抑えながらゆんの手紙を手にして玄関のドアを開け家に入る。自分の作業部屋に向かうとカバンを床に放り投げて、パソコンの前の椅子に座る。引き出しからレターオープナーを取り出すと、慎重に封を切る。
ゆんの手書き文字を見るだけでニッコリする。しかし、詩音にとってはゆんが何を書いて来るのか毎回気が気ではない。
ふぅっと息を吐き出すと便箋を広げる。
詩音は何度も何度も読み返す。
やった!と叫びたいものの、声にならない。
口を抑えて震えながらただ便箋を見つめる。
待っていてくれると…全てを受け入れると…
夏休みが終わったら帰るといいながら、ゆんから逃げてしまってちょうど一年。本当なら去年の今頃にはなんとかなっていたのかもしれない。いや…顔を合わせていたらもっとお互いに傷つけ合っていたかもしれない。
この一年をなかったことには出来ないけれど、この一年の間に以前は考えられなかったことにも挑戦してみて、色んなことを考えた。それでも自分のゆんに対する気持ちは変わることはなかった。
そしてやっとゆんが受け入れてくれた…。
詩音は嬉しいを通り越して、ホッとした気持ちが大きかった。
「逢いたいYO~!ってめっちゃ軽快な曲だよな…でもその通りなんだ。また、ぴったりな曲を選んだな…でもそう、まだ言えないんだよな」
ははは…と笑い泣きになっている自分がいる。
椅子の背もたれに寄りかかって目頭を抑える。
自然と涙がこぼれてくる。
これは今までと違って嬉し泣きだ。
しばらくそのまま涙が溢れるにまかせる。
しかし、これからが大変だと思い直して涙をぬぐう。
UCLAに受かってゆんを迎えに行かなければ。
必ずゆんのそばに行かなければ。
ゆんは待っていてくれる。
その確証が今、自分の手の中にある。
もう悩まなくてもいい、まっすぐにゆんへの思いを伝えればいい。
会ったときに、必ず伝えたいこと、多分それは同じだ。
「なんで手紙にするって言ったんだろうな」
我ながらバカだなと思わないでもない。
でも何か起これば花梨のところに連絡が入るはずだ。
だから、ゆっくり伝えたいことを書こう。
そう詩音は思った。
無邪気なゆんの笑顔、スネる様子、そして甘える姿…早くそれをまた身近に見たいと思う。でもまだなんだ…でも半年と少し後…卒業したらすぐにロスに行けるように頑張るしかない、と詩音は自分自身に気を引き締めろと言い聞かせる。
そして、レターセットを取り出して目の前に置く。
一年の空白を埋められるように…そして俺の方こそ待っていてくれと素直に伝えたいと思いながら、ペンを取った。
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