第22話 詩音少し妥協する

花梨、最高だな。


高上修介の手紙の写真を見て昨晩ひとしきり笑っていた。

そしてさっき花梨は修介との会話のあらましを送ってきた。


ありがたいな。ゆんにそんな友達がいるのは。


そう、土曜日だ。ゆんのイベントデーである。


「ゆん、ちょっと話がある」

「何、お兄ちゃん。と、そこでストップ!」

パシャ!

ゆんはカメラに詩音の姿を収める。

「ゆんさ、俺がほんの少し妥協したら怒る?」

「うん?何のこと?」

「イケメンの俺はゆんだけのものってところ」

「んんー、本当は共有したい派だよ?前にも言ったよね。でもお兄ちゃんがいやなら大丈夫だよ、もちろん」

「な、花梨呼ばない?」

「え?どうして?花梨に見せても大丈夫なの?」

「彼女はそれ以上のことしてくれたから」

「んんん?何のことなの?」

「とにかく、花梨に連絡して。うちで夕飯どうって」

「うん、わかった」


「あ、花梨?今大丈夫?」

「大丈夫だよーゆん何してんの?」

「家にいるよー。あのね、お兄ちゃんが夕飯一緒にどうって」

「ほほー詩音様作の美味しい夕飯をわたくしめもいただいて良いと?」

「花梨を誘えってお兄ちゃんが」

「ふふふふ。もちろん行くわよ!」

「うん、待ってる。いつでも来てー!」

「わかった。今駅前のスタバでたとこだから、バス乗ってすぐ行くね!」


詩音先輩倍返ししてくれるのかな。ふふ。高上修介のレポ効いたみたいね。


花梨は修介の言っていたことを考えていた。ああは言ったものの、時々ん?と思うことが無きにしもあらずだったのは正直隠していた。なんか元からのスペックがふたりとも違う次元なんだよなーなんて思っていた。でもこんなずけずけ物言うわたしにも臆することなく接してくれてて、一緒に過ごすのが本当に楽しい。だから、二人を傷つけたくないし、ありのまま受け止めるって決めてるんだ。ゆんや詩音先輩が誰であれ、どういう人物であれ、わたしが一緒に過ごしてる二人は大切な人達なんだ。だから、わたくし、山奈花梨の感が効くところはきっちり抑えて有効活用して一緒に楽しく過ごして行きたいんだ。いつの頃からかそう思ってたんだ。


ぴんぽーん!

モニターで確認する。花梨が到着したようだ。

テーブルにお皿を用意してるゆんには言わず、俺が玄関に向かう。


ドアを開ける。

「いらっしゃい、花梨」


へ????????誰、誰??????


思わずくるっと後ろ向きになって、頭の中に浮かんだ膨大なクエスチョンマークとともに花梨は混乱する。向き直って

「あのーこちら、野々村ゆんさんのお宅ですよね?」

「そうですけど」

「あ…あの…どちら様ですか?どうしてゆんの家にいらっしゃるんですか?」

「あほ、何いってんだ、俺だ、詩音」


えええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!


あまりにもびっくりしすぎたのか微動だにしない花梨を詩音が引っ張って中に入れる。花梨はそれでも硬直したままだ。


「ゆん、コップに水用意して」

「はーい…って!花梨来たの?」

「これ見て」

「あーあ…だよね、だよね、そうなるよね」


水を入れたコップを持って、ゆんは花梨を居間のソファに誘う。しかし花梨の目はまだ泳いだままだ。


「とりあえず、ここに座って、花梨?」

「う、うん…」

「花梨、大丈夫?ほら、お水飲んで落ち着いて?」


ゆんからコップを手渡されたものの、硬直したまま動けない花梨である。


「お兄ちゃん、ちょっとやりすぎ。わたしが出迎えてから説明したほうが良かったんじゃないの?」

「ふふふ、だって面白いじゃん」

「意地悪ね、お兄ちゃん」


詩音とゆんがじっと花梨を見つめる。

花梨が最初につぶやいた一言は

「インスタのイケメンさんが目の前にいる」

だった。


落ち着きを取り戻した花梨はそれはもうとにかく質問の鬼と化した。

「なんでなの、なんでインスタのイケメンがここにいるの?」

「ゆん、あんたんちにイケメンいるとか聞いてないし」

「なんであんたが出迎えて説明してくれなかったの」

「なんなの、モデルとか俳優とかそんな次元じゃん、それ以上じゃん」

「わたしが何か悪いことした?なんなのこのサプライズ!!!」

「ぜぇぜぇぜぇはぁはぁはぁ…」


「花梨、言いたいこと全部言った?まだなら待つよ」

「もういいわ。状況把握した。倍返し以上の何倍返しなのこれ」


落ち着きを取り戻した花梨は冷静さも取り戻していた。


「詩音先輩。レポートが役に立ったようですね」

「だな」

「だなじゃないっすよ!どんだけ驚いたと思ってるんですか!」

「何倍くらい返せたかな」

「一生分」

「ふーん。まだまだ甘いね」

「もうこんなのゴメンです!」


今晩詩音が作っていたのは回鍋肉に麻婆豆腐。今日は中華な日だった。


お皿の料理をつつきながら話は進んでいった。


「花梨、本当にすまないんだけど、このことはここだけの事にしておいてくれないか?」

「承知」

「あのね、説明するね、休みの土曜日だけこういうことしてるの」

「でようするにわたしが把握しなくちゃいけないことは、野々村詩音先輩は実はくっそイケメンってことですよね」

「イケメンって認定されたのならありがとう」

「実はバスケも上手なんですよね?」

「かもしれないけど」

「あーもーいいです!わたしは見たことだけ信じることにします!」

「花梨、ありがとな」

「詩音先輩のためじゃないですよ。わたし、ゆんとずっと友達でいたいだけだから」

「あの厄介なやつに対応してくれてありがとう」

「あいつほんとバカですよ。とりあえずわたしの見解はきっちり話しておきましたから。でもあいつバカだからまだ何かしかけてくるかもしれないですね」

「んー、ま、なんとかなるさ」

「ゆん!こんなにイケメンな兄ちゃん離しちゃだめよ」

「あのねー兄妹だし!」


わたし、山奈花梨は何かあるとは察していた。実はイケメンすぎな詩音先輩にもびっくりしたけど、その先にも何かあるのではないかと感じていた。






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