第21話 難攻不落な山奈花梨 その2

「ほー帰らなかったんだ」

「くっそ生意気だなお前。わざと遅れたのか」

「だって別にあんたに会っても会わなくてもどっちでもいいもん。あんな幼稚な手紙書いちゃってさ。30分くらい笑い転げちゃったわよ」

「くっそぉ…」

「で、どこ行って話そうか。あんたのおごりならスタバ連れてって」

「生意気だな。マックでいいだろ」

「失礼だなー誘っといて」

ずけずけとものを言う花梨に押されて仕方なくスタバに向かうことになった。

「あーあたしアイスカフェラテグランデでっ!」

「それでいいのかよ。他の女子みたいになんたらフラペチーノやらじゃなくていいのかよ」

「カフェラテ美味しいんだから十分だし」

「なら別にマックカフェでいいじゃん」

「ちっちっわかってないなー。じゃ、あそこに座ってるから持ってきてね」

「ちぇっ」


花梨のアイスカフェラテと自分のコーヒーを受け取った修介がテーブルについた。


「さて。高上修介さん。今日は一体何の用なんですか?このわたしに?わたしのことが気に入ったって大嘘よくお姉ちゃんに言えたものね」

「そうでも言わないと渡してもらえないだろ」

「お姉ちゃんすっごいきょどってたよ」

「悪いとは思ってる」

「ま、それはいいわ。で、何なの?」

コーヒーをごくりと飲み込んで修介は思い切って切り出した。

「お前さ、野々村詩音っておかしいと思わないか?」

「詩音先輩?なーんだてっきりゆんのことかと思ってた」

花梨は心の中で思いっきりあっかんべーをしていた。

「お前がみてる野々村詩音って本当の野々村詩音じゃないって思ったことない?」

「んー。詩音先輩ずっとあんな感じだもん。出会ったときから」

「君はいつ知り合ったんだ?」

「中学のときだよ。中1からずっとゆんといっしょだから。ゆんが可愛くてさー、すぐ友達になってもらって、それからずっと一緒。だから当然詩音先輩も一緒」

「何かおかしいと思ったこととかない?」

「何が?」

「だからさ、詩音て学校ではあんなじゃん。いっつも俯いてるし、先生に声かけられたらおどおどしてるし、でも本当はそうじゃないんじゃないかって思ったりしたことない?」

「んーそうだな。まぁ、詩音先輩、ゆんとわたしと一緒のときは少しはしゃべるかなくらい。わたし遠慮なく突っ込むほうだから」

「家に行ったりしたことは?」

「何回もあるよ」

「で、どうだった?」

「どうって普通だよ。あのまんま」

「そうなんだ…」

「あえて言うなら、詩音先輩料理がすごく上手ってことくらい」

「それはそうなんだろうな。食べて帰ろうぜってさそっても家でなんか作るしか返ってこないからな」

「ま、そんなとこよ」

「あいつが近所の広場でバスケしてるの見たことある?」

「ないよ、何それ」

「もしあいつが実はバスケすっごい上手かったらどう思う?」

「別にいいんじゃない?」

「は?それだけかよ」

「みせびらかさないだけでしょ、誰かさんみたいに」

「なっっ」

「もし詩音先輩が本当にバスケ上手だったとしてもだから何?それで世界が変わるわけ?あんたには関係ないことでしょ。詩音先輩の問題でしょ」

「俺はさ、成績優秀、スポーツも出来る、そんなヤツがひたすら気配消して学校にいるのが意味不明なんだよ」

「バカだねー」

「なんだと!」

「あんたと世界が違うんだよっていうか、考え方が違うだけ。勉強できて、スポーツも出来る人がみんなクラスの人気者になりたいとでも思ってるの?」

「普通そうだろうが」

「ははん。それで詩音先輩のこと嗅ぎ回ってたのね。ご愁傷様です」

「お前ほんっと気に入らないな」

「気に入ったから誘ったんじゃないんだー」

「いちいちムカつくヤツだな」

「ま、あんたが何を知りたがってるのか知らないけど、あんたが詩音先輩に立ち向かうのは無駄よ」

「どういうことだよ」

「わたしが思ってることだけど、詩音先輩には詩音先輩の考え方ややり方があるの。理解できなくてもきっとそうなの。だからそれはそれで別にかまわないじゃない?わたしたちに何か起こるわけじゃないし」

「うっ…」

「まぁそういうことよ。わたしはわたしが見てるそのままの二人が大好きなんだよ。それ以上何かを知ろうが知らまいが、二人が大好きだから一緒にいるだけなんだよね。あんたにはわからないだろうけど。今見てる以上を知ったからってだから何ってこと。それはそれで良いことじゃない。だからといって無理に外部の人間が騒ぎ立てることじゃない」

「………」

「じゃ、そういうことで。おごってくれてサンキュ、じゃねー」


山奈花梨は颯爽と去っていった。

この土曜日の午後は一体何だったんだ。

何も得られるものはなかったどころか諭されたんじゃなかろうかこれ。

年下の女の子に。






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