第31話 先輩が語る詩音

「どうだ、楽しいだろう?」


ゲームを終えてポカリを飲みながら汗を拭いていた俊介は話しかけてきた男を振り返った。


「ここに集まる連中はみんな気のいい奴らばかりだから、緊張せずに気軽に遊びに来るといいよ」

そう話す男は、あの不良達を仕切っていた人物だった。

「あの、あなたは?」

「あぁ、はは。みんな自己紹介も忘れてるな。俺は詩音のテコンドー道場の先輩、近藤竜。今大学2年生」

「え?テコンドー???」

「知らないのか。そうか。さっきの見てたんだろ?あの連中も昔はテコンドー通ってたんだけど、喧嘩するから師匠が激怒して破門にしたんだ」

「なるほど…」

「でも何年も一緒に練習してたしさ、根はそこまで腐ってないから師匠に内緒でちょっと面倒みてるんだ。相談にのったりとかね。しょうもない相談ばっかりだけど」

「詩音も喧嘩したわけじゃないですか」

「あー詩音今は道場に通ってないから。なんかやることがあるんだってさ」

「ふぅん」

「修介は詩音と仲いいのか?」

「とんでもない!アイツは敵です」

「あははははは」

「野々村は…本当にわかんないヤツですっごくイライラするんです」

「そう?いいヤツだよ。今日だって君を入れるためにわざと抜けたよ」

「え???」

「そういうヤツなんだって。多分詩音が打ち解けてしゃべるようになるまでわからないことのほうが多いと思うけど」

「別に仲良くなりたくはないです」

「その割には今日ここに来たよね。なんで?」

「えっと…その…今受験勉強してて、ちょっと煮詰まっちゃってなんとなく」

「ふぅん」

「修介はどうして詩音が気になるんだい?」

「学業優秀、スポーツ万能、なのにあんな見た目で地味で目立たなくて、めったに話もしない。俺、中学んときから詩音みてるんですけど、イライラするんですよ」

「放っておけばいいじゃないか。詩音は詩音だし」

「でも、普通なにか取り柄が一つでもあれば、みんなに注目されるじゃないですか。見た目が変でも成績クラストップとかなったら普通は注目されますよ。だけどアイツの場合誰も気にもかけやしないんです」

「確かにな。でも詩音がそれでいいんだろ?君がどうこうしたってしょうがないじゃないか」

「実は、俺ここで詩音がバスケめっちゃ上手いって知ったじゃないですか。それで、それをみんなに見せようとして、詩音を無理やり昼休みのバスケ対決に引っ張り出したんです」

「よくやるなー。でどうなったんだい?」

「ここでの詩音じゃなかったです。右往左往して体当たりされて床に倒れてました」

「あははははは。君もひどいことするね。あははは!詩音はさ、平穏に過ごしたいだけなんだよ、多分。あいつに必要なのはゆんちゃんだけだし」

「ちょっとそれもおかしいですよね。いつもべったりですよ」

「まぁ確かにな。でもあんだけカッコいい、あ、見た目じゃなくてさ、中身がカッコいいお兄ちゃんいたら最高じゃないか。そこなんじゃないかな、詩音がやってることって。俺はそう思ってみてるんだ」

「はぁ…」

「ほらさ、君にも知られたくないことの一つや二つあるだろう?詩音だって一緒さ。そこを無理やり嗅ぎ回るのってダサくないかな?」

「まぁ、はい、それはそうですね、でも俺やっぱり気になるんです」

「いいかげんでやめとけよ。忠告しとくわ。それより、バスケ来いよ。週末はたいてい誰かいるから勉強の気分転換に来いよ」

「あ、はい…」

「詩音のことは気にするな。誰がどうあがいてもアイツには勝てないし。じゃ、そういうことでまた来週な!いいな!」


そう言うと近藤は立ち上がって荷物をまとめ始めた。


なんなんだ。詩音に近い連中はみんな詩音擁護か。

誰も俺の話なんて聞いてくれてないよな。

野々村詩音、そんなに凄い男なのか?

ただのシスコン野郎だろ。ムカつくー


高上修介。

やはりこの男は物事が飲み込めない不器用な男なのであった。



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