第86話 詩音を取り巻く嵐
詩音は7月に入ってからゆんの手紙を受け取った。野々村ゆんからの手紙だった。会いたい、と書いてくれた。素直に本当に嬉しい。でも、と思う。
ゆん、君の気持ちは一体どうなんだ?
詩音は何度も手紙を読み返しながら頭を振る。この文章からでは俺のことを今どう思っているのかわからない。会いたいのは兄としてなのか?ふぅっとため息をつく。それにゆんを好きになったことを後悔するわけなんかないじゃないか。今でもこんなにゆんのことが好きなのに。
土曜日バスケに来てひとしきりゲームをして、バテた!などといいながらみんなでしばらくおしゃべり兼ねた休憩に入っていた。
「どうしたんですか、詩音先輩?」
浮かない顔をしている詩音に花梨が話しかける。
「んー、よくわからなくて」
「またまた、何気弱なこと言ってるんですか」
「なぁ、好きって言うことって難しいよな」
「人によりけりですよ。わたしはズバッとわたしから言いましたから」
「さすがだな。そうなのか、修介?」
「突然、好き。付き合おうって言われたよ」
「でそれからどうしてるんだ?」
「まぁ、最初の出会いが出会いだったんでもう何も驚かないし。それにこうみえても女の子らしい可愛いところもあるんだよ」
「ちょ…何を…」
「俺は花梨につかまって良かったんだよ」
そういうと修介はニコニコと笑う。花梨は真っ赤になっている。
「羨ましいな」
ポツリと詩音が言う。
「は?お前が?俺達のことを?」
修介はビックリする。
「あー修介、詩音先輩今ゆんの返事待ちなんだよ」
「え…あ?何、そのまだ和解出来てないっていうか…?」
「和解してもそれとこれとは別なのよ。ったく鈍いわね」
「あ…すまない」
「まぁ、要するに先輩とゆんが腹の探り合いしちゃってるのがいけないのよ」
「そんなに簡単に言うなよ」
詩音は花梨を睨む。
「あれ、そうじゃないの?はぁ…いつまでもじれったいわね」
花梨は頭を振ると自販機に向かって歩いていく。そして花梨はひとりごちる。ったくゆん、何やってんのよ…
詩音はバスケからの帰り道、珍しい人からのメールが入っているのに気付いた。レンからだった。ゆんのこと?ひととおりその場で目を通す。そしてうわ、一体どうなってるんだ…と驚いていた。
レンからのメールの内容はこうだった。レンのスタジオに置いてある詩音の大伸ばしの写真を見て、ぜひモデルに起用したいというオファーがある。彼はそういうのは受けないと何度も断ったのだが、今日はとうとうわたしのところで撮影した俳優やモデルのマネージャーから話を聞いたその会社の広報担当がうちにやって来てしまったんだ。もちろん、断ったのだが、本人に一度聞いてみてくれと言われてしまった。詩音は高校3年生で日本にいるから無理だと言ったのだが、日本に出向いて面接してもいいとまで言う。受けてもらえたら、撮影も日本でして構わないという。撮影は僕に頼むとも言ってる。有名な服飾ブランドと高級時計ブランドの若者向けコラボレーションなんだそうだ。アジア向けが主らしいけど、全世界的にも使われるようだ。どうだろう。考えてみてくれないか?モデル選びが進まず時間がないようで先方は焦っているようだ。どちらにするにしても早く返事をくれると助かる。
詩音は想像もつかなかった内容に頭を抱える。なんだこれ…。
もうひとつ、ジェレミーからもメッセージが入っていた。
ハイ、詩音!いい話があるんだ!
こないだインディー界隈では凄く注目されてて、とうとうメジャーデビューが決まったシンガーがうちに遊びに来てさ、君が残してた曲のいくつかを聞いて使いたいって言い出してるんだ。彼がひとつとても気に入った曲があって、あれ、詩音がなにげに歌ってるよな。歌詞もついてるよな。そのままでいいから歌ってみたいって言うんだ。どう?
あ、やっべ…あれ…見つかっちゃったんだ…。
その曲はゆんのことを思って作った曲だった。だからその曲だけ歌詞も自分で書いてボーカルのガイドになるかとなにげに軽く歌ってみたものだった。タイトルも決めていて、作業場が一人になったときになんとなく録音してみたものだった。
一気に二つもとんでもない案件が舞い込んできて詩音は呆然としたままだった。
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