第104話 詩音の伝言
レン、ジェフそしてスタッフ達は時間変更線を越えてロスに戻った。
空港には由奈がレンを迎えにやって来ていた。
「レン!」
由奈が扉から出てきたレンを見つけて手を振る。
羽田を夕刻に出た飛行機がロスについたのはお昼過ぎだ。
レンはゆったりとスーツケースを引きながら由奈に近づく。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「どうだった?」
「とても良かったよ。詩音君は向いてると思うんだけどね」
「レンもそう思いますか?」
ジェフが口を挟む。
「君は詩音を囲い込みたいんだろう?」
レンは尋ねる。
「悪い話じゃないと思うんですけどね。彼にとっても僕の会社にとっても好都合だし。でも即決は出来いないみたいなんですよね。ゆさぶってますけど」
ジェフは面白そうに微かに笑みを浮かべる。
「レン、データはうちも貰ってるから、使いたいものをこちらでも検討します。レンもこれがいいというものを選んで下さい。後で一緒に詰めましょう。うちの会社に来てもらってもいいんですが、レンのところで作業しても構いませんか?僕の自宅はレンの家から遠くないんです」
「ほう、そうだったのか。構わないよ。編集などはうちで出来る」
「ではまた連絡します。今日はゆっくり休んで下さい」
そう言うとジェフは一緒に帰ってきたスタッフと共に、迎えの車に向かって去っていった。
レンも由奈が運転する車に乗り込んで自宅を目指す。
「ゆんは帰ってきてるのかい?」
「まだです、明日ですよ、帰ってくるのは」
「そうなのか」
「どうかしました?」
「詩音君からの伝言があるんだ」
「それは重要ね」
「野々村さんのお宅にもお邪魔してきたよ」
「まぁ、ゆりは元気にしてました?」
「二人とも元気だったよ。ゆんがいなくなって寂しいと言っていた」
「そうよね…ずっと一緒だったんだもの」
「詩音君が思い切ったことを言ったんだよ」
「何を言ったんですか?」
「ゆんと婚約したいと」
ゆりは大きく目を見開く。
「もちろん、ゆんの気持ちも聞かなければならないが、野々村さん達も反対はしなかった。いずれ結婚するのだと思っているからだね。しかし大学を出るまでは結婚しないとも言ったよ。大学をきちんと卒業するのは大変だからね。ゆんを安心させるために婚約したいと。若すぎる、早すぎるのはわかっているけど決心は固そうだったよ」
「それが伝言なんですか?」
「もちろん違うよ。それは詩音君がゆんに直接言うべきことだ。その前にも言わなければならないことがあると思うよ、おそらく。僕が預かってきた伝言は違うことだよ」
レンはふふっと笑みをもらす。由奈は首をかしげる。
「待って欲しいということだよ、詩音くんが伝えて欲しいと言ったのは」
「まぁ、そうなのね。ふたりのわだかまりは解けたのね?」
「まだぎこちなさそうだけれどね」
レンは笑う。
「まだ手紙を書くって言うんだ。そのほうがいいって」
「まぁ、じれったいわね」
「色々考えているんだよ、きっと。うるさいことを言わずに見守ろうじゃないか」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
詩音は空港から家に戻ってやっと一息ついた。
自分がしていることが正しいのか間違っているのかはまだわからない、と思う。でもただ、レンが届けてくれたゆんの手紙、それだけが真実なのだと、それ以外のことはどうでもいいと思った。難しく考えて過ぎていたのかもしれないとも思った。どうして素直に全て話さなかったんだろうという後悔は、ゆんの横に立って手を取るまでは消えないだろうとも思う。でも、ゆんが届けてくれた曲のように、素直に、ただ単純に好きという気持ちを忘れないでいたいと思った。レンに託した気持ちが届け…と祈っていた。それだけでわかってくれるなら…多分僕達は大丈夫だろうと、まだつながってるのだと確信が持てるだろうと。
詩音は思ったより緊張していたのかもしれない。色んなことを考えながらもすぐに眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます