第43話 花梨、修介をほんの少し見直す

「ちょっと待ちなさいよ!」

全力疾走して修介にようやく追いついた花梨が後ろから叫ぶ。

「うわぁぁぁぁぁぁ」

まだ叫びながら走ろうとする。

花梨はアホくさと思いながら、むんずと修介の髪の毛を引っ掴む。

修介はあやうく後ろにコケるところだった。

「な、なにしやがるんだ!」

「はいはい、どーどー。落ち着きなさいってば」

「こ、こ、これがどうやって落ち着けるっていうんだ!!!」

「あんたが何そんなに興奮してるんだか知らないけど、周りの人見てみなさいよ。あんたのこと超怪しい目でみてるわよ」

キョロキョロ…え…

「あ、怪しくないです、俺、怪しくないです、ちょっと驚いたことがあって…」

「あのね、誰も聞いてないから」

「あーーーー」

「こっちが恥ずかしいわよったく。とりあえず着いてきて」

花梨は修介を引っ張っていく。

「今日はミスドね。あんたの頭働いてないみたいだから、糖分補給してあげるわ。心配しないで、おごるから」


ミスドに着いた二人はドーナツを選ぶ。

「あんた選びすぎ!もう2個減らしなさいよ!」

「おごりのときはきっちり食べるに限る」

「あんたねー、年下におごってもらうのに遠慮ってものはないの?」

「誰がお前に遠慮なんかするか!あ、これも下さい」

くそーこんなやつなぐさめようと思ったわたしが甘かったのか。くそー

トレーに載せたドーナツと飲み物を持って二人は二階のテーブルを陣取った。


「で、あんた何そんなに興奮しちゃったのよ」

「お前見なかったのか?詩音が前髪あげてキャップかぶり直したの」

「みたよー」

「驚かなかったのかよ」

「あーごめん。実はこないだの土曜日に詩音先輩の本当の見た目を初めて知ったんだ」

「なんだと!?俺に嘘ついたのかよ、知らないって」

「いや、ぶちゃけわたしも驚きすぎて固まっちゃったんだよね、その時。んーもいっか。あんたは見たわけだから」

アイスカフェラテをチューっとストローから吸い上げると、ふぅ、と一呼吸おいて花梨は続ける。

「あんたと初めてスタバで話したじゃない。そのすぐ後にゆんから夕飯食べに来ない?って連絡あったわけよ。詩音先輩の作った美味しい夕ご飯たべれるなら行くしかないわけ。そんででかけて行ったらさ、みたこともない超ハンサムな男の人がドアを開けたのよ。ここ、先輩とゆんの家のはずなのに、知らないむっちゃイケメンが出てきたからびっくりして家を間違ったのかと思ったんだ。で、ゆんの家ですよねって聞いたら、そうだって言うから、あなた誰なんですかって聞いたら、俺だ、詩音だって言われたってわけ。そりゃびっくりしたわよ。たぶん生まれてから一番ビックリしたくらいだったわ。そんでわたしも固まっちゃってさ…事態が飲み込めるまで。このわたしでさえちょい時間かかったんだから、あんたがおかしくなるのはわかる。うん、わかる」

「え、でもお前何回も家に遊びに行ってるって言ってたじゃないか」

「行ってるよ。でもそんな姿の先輩は一度もなかったんだ」

「なんだと?それって一体何なんだよ」

「わたしにもよくわからないんだけどさ、先輩ゆんにしか興味ないじゃない。として考えてみると、多分、イケメン度んぱないじゃない、放って置いてもミーハー女子がわんさか寄ってくるでしょ。そういうのが嫌なんじゃないかなって思ったのよね」

「はあぁぁぁ???男はモテてなんぼだわ」

「アホねー。だからあんたとは考え方が違うって前々から何回も言ってるでしょ!」

「わかんねー俺には理解出来ないわ」

「とにかく先輩とゆんが言うには、毎週土曜日家でだけなんだってイケメン詩音先輩は」

「なんだそりゃ?」

「わたしもよくわかんないけどそうなんだってさ。で、たまたま誘われたのが土曜日だったっていうより、わたしのことは信頼してくれたってことだと解釈してる」

「ほーほーそうですか」

「何なのよ。文句ある?」

「いや、でもほんとに…ほんとにアイツくっそイケメンだったんだな。あのレベルはんぱねーわ。ただ前髪上げただけだぞ、俺が見たの。もしいい服来てさ、ヘアスタイル替えてさ、そんで街に立ってたら、俺だってスカウトに行くレベルだわ」

「何のスカウトよ。ま、いいわ。はっきり言っとく。他言無用よ。先輩とゆんとわたしとあんただけの秘密よ」

「なんでだよ」

「二人が今まで内緒にしてたのよ。それを外部の人間が広めるなんて失礼じゃないの?それにバスケのことだって、あんた学校で先輩にひどいことしたじゃない。忘れたの?」

「そ、それは…悪かったと思ってる。まさかあいつがあんなふうに出来ないやつを演じるとは思わなかったんだ」

「そうでしょ?バスケはまぁああして先輩がカバー出来たけど、外見については誰かが、例えばあんたの取り巻きとかが先輩を抑えつけて髪の毛いじったらおしまいじゃない。あんたがうかつにもポロリしたことによってあの二人がどうなると思うのよ。ちょっとは想像してみなさいよ!」

「あー学校中の女子がみんなむこうになびくわ」

「あーのーねーーーーーそういう話じゃなくて!」

「わかってるって。俺だってそこまでバカじゃないぞ。これは真面目な話だ。6年近く詩音を追ってるんだからな。それでもしっぽを掴めなかった詩音なんだから、隠しておきたいことなんだってのは…だんだんわかるようになってきた。褒めてくれ」

「はぁ????一言多いわ。にしても6年も追ってるわけ?」

「聞きたいか?中1のときから詩音ハンターだ」

「やっぱりバカだ…」

「バカバカいうな、とりあえず聞けよ、俺がどうして詩音を追い始めて今に至るのか。まだ詳しいこと話してなかったよな?」

「はいはい…」


花梨は思った。あんたほんと先輩の秘密を追うとかなんとか、相当時間を無駄にしてるわよ。その間に他に色々出来たんじゃないの?あんたそれなりな風貌だし、一応人気もあるわけでしょ?でも…こいつの野生の勘?っていうの?何かあるって追い始めたの、今になって真実が明るみになってきてるわけじゃない。ひょっとして回り回ってこいつって凄いのかも?いやいやいや。バカはバカでも一味違うおバカなのかな、なんて今日はちょっといいこと言っとくね、心の中で。でも二人の関係のことまでは気が回ることはないよね?それでいい。そこをアイツが突っ込み始めたらややこしいことになる。当分見張ってなきゃな…


「ふぅー食った食った!」

「食べ過ぎでしょ」

「そろそろ帰るか」

「だね」

二人はトレーを片付けると外に出た。


「あ、で!毎週土曜日のバスケ、お前も毎週来いよ!」

「なんでよ!わたしには一切関係ございませんっ!」

「いいじゃないかよ、詩音妹も来るじゃん」

「ま、確かにね」

「で、帰りはこうやって色々詩音のこと話そうぜ」

「はあぁぁぁぁ???」

「今度は俺がおごるし。持ち回り制な!」

「呆れて言う言葉もでないわ」

「決まりな!来週も来るんだぞ!」


そういうと修介は走り去って行った。


なんでわたしがあいつに付き合わなくちゃなんないのよ。毎回こっちの言いたいことビシッと言ってんのに、びくともしないみたいだわ。こっちが驚くわ、あのバカ男。


花梨は頭を抱えながら家路についた。




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