第116話 Into The Caveに行ってみる

土曜日。

Into The Caveの本店に行ってみようということになっていた。

Into The Caveはウエスト・ハリウッドに本店を持っていて、服の他に、カフェ、スケートボードや自転車を扱う店、レコードやCD、ジンなどを扱う店、さらにはギャラリーなども併設しているオシャレで尖った人たちも集まるそんな場所だった。


お昼ごろに待ち合わせして、ルーシーの家の運転手付き自家用車で向かうことになっていた。待ち合わせ場所にはルーシーと彼女と仲のよい友達二人が一緒だった。


「行くの久しぶり!」


ルーシーは言う。


「面白いところよ。あの辺りは色々オシャレなお店も多いし、楽しめるわよ」


その方面についてはさっぱりなゆんは「そうなんだ」とあっさり言う。


「いや、もう少し関心持って!」

「って言われても…」

「まぁまぁ、行ったら色々ゆんに似合う服とか探してあげるから!」

「うん、それはまぁ、うん、いいよ」

「なんか張り合いがないわね…まぁいいわ、行くと楽しいから」


そうして車に揺られること30分くらい。


「さ、降りて降りて。帰る頃になったら連絡するからよろしくね」


ルーシーは運転手に声をかける。


「承知いたしました」


運転手は皆が降りたのを確認すると車をどこかに走らせて行った。


「ちょっと変わってるよのよね。よくある店舗っていうんじゃなくて、アパートを改造してるの。本店だけど、本社もそこにあるのよ」

「ふぅん。そうなんだ」

「そんなこと出来るのジェフだけだわ。立地的にも結構高いところなんだけどね、まぁ、彼はビジネスマンとしても優れてるってわけ」

「なるほどね」


メインストリートから一本入った道に進む。


「ほら、あそこよ」


ルーシーが指さしたのは少し古い感じのアパートだった。

しかし、若者が出入りしていて賑わっているようだった。


「ね、普通の店ではないでしょ?でもま、中は色々ぶち抜いて空間作ってたりするから、入ったらもっと面白いわよ」


アパートの前は芝生の庭になっていて、1階にあるカフェが外にもテーブルを置いていてそこでのんびり楽しんでいる人たちも多くいた。


「ふぅん、面白そうだね」

「でしょ?これは見てみないとわからないでしょ?」

「うん。思ってたよりいい感じだね」

「あら、ゆんが言うなんて」

「いままであんまりこういうところに来たことなかったから」

「日本ではどうしてたのよ?」

「んー。ショッピングモール行くくらい」

「え」

「インドア派だったから」

「もったいないわー。トーキョーに住んでたんでしょ?」

「東京って言ったって広いんだから」

「まぁそうでしょうけど」


ルーシーは腑に落ちないようであった。


「さ、入りましょう」


ルーシーが中央の開け放たれた両開きのドアから入るようみんなをうながした。


「1階はカフェとか食事が出来るの。奥にはCDとか置いてある音楽中心のセレクトショップ。2階にはスケートボードや自転車のお店。本格的なのよ。その奥にギャラリーもあるの。若いこの辺りに住んでるアーティストがよく使ってるわ。3階はブティック。服だけじゃなくて、バッグやアクセサリーもあるのよ。その上はオフィスね」

「ルーシーよく知ってるのね」

「だってよく来るもん」

「そうなんだ」


4人はぶらぶらとあちこち見て回る。

CDなどを見ていたらゆんが言う。


「あ、この曲知ってる」


詩音に聞かせてもらったことがある、ジェレミーが作った曲だった。歌ってるのは誰だか忘れていたけれど。


「え???ゆん、音楽好きなの?」

「あー、お兄ちゃんが音楽やってて。前に聞かせてもらったことがあるなって」

「意外だわ…」

「音楽は好きだよ。自分は聞くだけだけど」

「へぇ。あなたのお兄ちゃんって、イケメンこのうえなくて、音楽やってるの?歌とか歌うの?」

「うぅん、音作る方」

「そうなんだ」

「学校休学して去年半年くらいこっちで音楽やってたの」

「あ…」

「そうなの。なんか誘われてやってみたいって夏休みにこっち来て、結局そのまま帰ってこなかったの」

「そういうことだったのね」

「うん、そう。お兄ちゃんがこっちに来てたのって音楽やるためだったの」

「なんか凄いわね」

「こういう時代だからじゃないかな。ネットでお兄ちゃんこっちの人たちと連絡取り合ってたし、データのやりとりして一緒に共同作業したりもしてたから」

「なるほどね。それにしても…あなたのお兄ちゃんってタダ者じゃないわね。見たかったら後でまたゆっくり見ればいいから、2階もざくっと見てみましょ」


そういうとルーシーはみんなと2階へ向かう。


2階は広いスペースにスケートボードがたくさん飾られている壁が圧巻だった。自転車もたくさんディスプレイされていて、パーツもたくさん揃っていた。たくさんの若者からロードサイクルやマウンテンバイクを楽しむ中高年の姿も見られる。みんな熱心に店員と話し込んでいたり、あれこれ見回っている。


「凄い!なんかセンスいいっていうか…」


ゆんはびっくりして辺りをぐるぐると見回す。


「面白いでしょ?自分が乗らなくても見るだけでも楽しいでしょ?」

「うん、そうだね」


ひとしきりその部屋を見て、奥のギャラリーにも寄ってみる。


「あ!写真展やってる」


ゆんは嬉しそうに部屋に入る。


「ここは無料開放のことが多いのよね。時々有名な人のときは入場料が必要だったりもするけど」

「わー凄い、面白い!」


ゆんは一つ一つの写真を楽しそうに鑑賞する。


「こんなことも出来るんだ。色が鮮やかで綺麗だな」

「よかったら、このパンフレット持っていって」

「いいんですか?」

「いいよ。僕が撮って作ったものだから」

「ここにあるものはあなたの作品なんですか?」

「うん、そう」

「とても好きです。色が本当に綺麗」

「ありがとう。君も写真やってるの?」

「まだ始めたばかりと言っていいです。まだまだわからないことだらけです」

「そうなんだ。写真は面白いよ。どんどん撮って、君だけの表現を掴めるように。操作を知ることも大切だけど、君自身の感性も大きく出せるように。長く続けて」

「はい、ありがとうございます」


ゆんは本当に楽しそうに写真を見て回る。

そんなゆんの様子を写真の主はニコニコと眺めていた。


「ささ、ブティック行きましょ!」


ルーシーが声をかける。


「あ、うん。帰るまえにまたここ見たい」

「いいわよ、でも今日はとにかく服見に来たんだからね!」

「はいはい…」


ゆんは名残おしそうだったが、ルーシーがゆんを引っ張って3階へ向かった。


3階は扉を開けると広い空間が現れ、そこにたくさんの服が並んでいた。壁にはセンスのよい落書きや写真やポスターなどがたくさん並んでいる。十分に歩けるスペースが取ってあるので、せせこましい感じはない。とても居心地のよい空間で、こういうところに慣れていないゆんでもテンパらずに見れそうだった。


「ゆん、どう?」

「思ってたより居心地が良いな」

「でしょ?」

「緊張しなくても大丈夫かもしれない…」

「何言ってるの。ここで緊張するんだったら、高級ブティックなんか行ったらどうするつもりなのよ」

「そういうところいは行かないから」

「はぁ…そういうとこに行くこともないとは限らないわよ」

「ないよぉ」


ゆんとルーシーが話をしていたら、飛んできた人がいた。


「きゃーーー!!!ほんとに来てくれたのね!!!」


ゆんはがばぁっとその人に抱きつかれた。


「うわぁ…!」

「覚えてる?カイリーよ!!!」


カイリーは満面の笑みを浮かべながらゆんに抱きついていた。

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