第53話 母娘の会話

「ゆん、何もすることがないのなら、少しお話しない?お父さん出張で今晩いないのよ。わたしも退屈なの」

食事を終えたゆりがゆんの部屋をのぞいた。

「あ、うん、いいよ」


ゆんが居間に行くと、テーブルには紅茶とケーキが用意されていた。

「うわ!お母さん大好き!」

ニコニコ顔でソファに落ち着くゆん。そんなゆんをゆりはニコニコと見ていた。

「海は楽しかった?」

「うん!たくさん写真撮ったの。あ、あのね、花梨がお兄ちゃんにお兄ちゃんのカメラ使ってもいいか聞いて許可でたっていうから、お兄ちゃんのカメラ持っていったの」

「あら、ゆんが詩音に聞いたんじゃないの?」

「お兄ちゃんには連絡してない…」

「あらどうして?元気にやってる?とかそっちはどう?とか聞けばいいじゃない」

ゆんはケーキを一口頬張る。

「んーだって…黙って行っちゃったから怒ってるんだろうなって思って」

「あれは自分に対して怒ってるんだと思うわよ」

「え?わたしのこと怒ってるんだよ」

「怒ってないわよ、きっと」

「そうかなぁ」

「行くのならちゃんとお父さんに話しなさいって言ったのよ。ちゃんと詩音はどうして行きたいのかお父さんに話してから行ったの。それを聞くところによると、自分が許せなかったみたいよ?それでね、冷静になりたいって。ゆんとちょっと距離を置いてみて考えたいって言ったそうよ」

「悲しい…」

「何が悲しいの?」

「お兄ちゃんにそうさせちゃったこと。ゆんと距離を置きたいなんてお兄ちゃんが言うなんて…わたしのせいだもん…」

「何があったの?わたしには話せないこと?」

「んーこんなことお母さんに話すのはおかしいのはわかってるんだけど……わたしも自分の気持に気付いちゃったの。でもダメなの。だってお兄ちゃんだもん…お兄ちゃんなのに、触られるとドキっとしちゃうの。ちょっとギュッとされると恥ずかしくなっちゃうの。今までそんなことなかったのに…。それに気付いた日に色々考えてみたの。で、わたしがおかしいんだって思ったの。お母さんもそう思うでしょ?だから、ダメだよって言ったの。それで怒っちゃったんだと思う」

「ゆん、詩音が何の考えもなしにそんなことをしたと思う?まぁ、お父さんから話を聞いたところによると、自分の息子ながらちょっと情けないわって思ったけど」

「?????お母さん?」

「詩音はね、多分焦っちゃったんだと思うの。ダメなお兄ちゃんね?」

「?????何の話なの?」

「ゆんの気持ちと詩音の気持ちは同じ。そうじゃないの?」

「?????でもだからって…お母さん何を言ってるの?何のことなの?わたしわからないよ?」

「詩音に聞いてみなさい。あなた、詩音の話を聞こうとしなかったんでしょ?」

「あ…え…?何か話をしようとしてたの?」

「そうみたいよ?でもゆんが聞いてくれなかったって言ってたそうよ」

「…それでも、その話を聞いたとしても…わたしの答えはノーだったよ」

「ゆん?あなたもしかして…知ってる…の?」

「ごちそうさま!わたし部屋に戻る…ごめんね、お母さん。今日はここまでにして…」

「ゆん!待って…」


ゆんはいたたまれない気持ちになってバタバタと部屋へ駆け込んで鍵をかけた。

お母さんは察してしまっただろう。もうどうしたらいいのかわからない。何も考えたくない。とにかくあの女性ひとに会って、今度こそちゃんと話を聞くまでは…。今年あの女性に会うことがあれば思っていたことを全部聞いてみようと決心していたのだ。詩音が好きだと気付いたときに。

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