第73話 内疎外親 ないそがいしん

 施設に車が到着する。

 深夜3時。

 彩矢子が眠そうに迎える。

「こんな時間に…羽田には、もっと早く着いていたはずよ…まったく何をしていたのNo9ナイン

 黒いセダンの後部シートから降りた背の低い男。

 黒いスーツが似合わない、手首には似つかわしくないタグホイヤー。

「いや…別に…久しぶりの日本を観光しただけさ彩矢子」

「そう…迷惑だから、勝手に動かないで頂戴、部屋は3階よ、私は眠るから、明日話しましょ」

「話…No42フォウツゥのことか?」

「他に何が? ナンバーズは全て、あの子のために存在するの…理解してるわよね?」

「あぁ…」

「まったく、No5フィフスはちゃんと時間通りに来てるのに、半日無駄にしたわよ」


 不機嫌な彩矢子は、そう言うと自室へ戻って行った。

(どうも俺は女に嫌われるようだ…ククク)

 下卑た笑顔で用意された部屋へ向かう。


 あれが、No42フォウツゥの女か…案外、普通だったな。

 俺に身体を見せるのも、触られるも嫌がっていたが、マリアになるんだ、嫌ってほど弄り回さないといけなくなるんだがな…身体の中まで…ククク。


 なにせ遺伝確率250億分の1だ、奇跡を俺の手で造るんだから。

 俺は世界の創造主になるんだ。


 自室で独り、ニタニタと笑うNo9ナイン


 彩矢子にナミをマリアにすると吹き込んだ張本人。

 No68シクスエイトを研究から外した男でもある。

 NOAではないが、その実績から、かなりの権限を与えられているナンバーズ。

 特別、IQが高いというわけではなく、肉体的にも優れているとはいえない。

 この男が、それだけの権限を有しているのは、その性格によるものだ。

 策士というか参謀というか、自身では動かず、他者を利用する能力に長けている。

 指揮官向きの男。

 だが、普通の企業では馴染めない。

 彼が打ち出すその策は、およそ常人には非人道的な側面を合わせ持っている。

 倫理が欠落している、この組織でのみ彼の存在は活かされる。


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