第122話 虹融合 にじゅうご

「亜紀人、No0ナンバーゼロに触れなさい」

 彩矢子がNo0ナンバーゼロが浮いている水槽を音叉で破壊する。

 すぐさま、サクラが音叉を受け取り、マザーに向ける。

 カィーン…というクリアな音が室内を震わせる。

 向けた先の外壁に1歩、一歩、進むたびに、数㎝ではあるが外壁がサラサラと砂に変わり床に落ちていく。

「触れて…どうする?」

「目を閉じて、マザーに語りかけなさい…No0ナンバーゼロはマザーに直結している唯一の端末…アクセス方法はソレ以外に思いつかない」

「気持ちで繋がるのか?そんなこと…アンタらしくもない」

「でも信じなさい…姉さんを…あなたの母親を…」


 亜紀人は黙ってNo0ナンバーゼロという肉の塊に触れた。

 ひんやりとグニャリとした感触。

 少し力を込めればズブズブと腕が入っていきそうな感触。

(気持ちのいいものではないな…だが…)


 亜紀人が目を閉じ、語りかける…。

 なんと呼べば?

(母さん…?なのか…それでいいのか…何を思えば?)

 彩矢子も目を閉じている。

(姉さん…姉さん…嫌いだったわ…ホントに…)


 思い出が空っぽの息子と、仲の悪かった妹が無謀にもマザーに語りかける。


 No80ハチマルは思っていた…配役は悪い…予算は無い…売れないなと確信しているB級映画を撮るってこういう感じなんだろうな…。


 その中で唯一の希望がサクラである。

(楽しそうだ…なんか快感なんだろうな…絶対壊してはいけない物を砂に変えていいんだもんな…背徳感が快感なんだろうな…)

 薄く笑っているサクラ。


「さて…外壁が剥き出しになるまで、後は待つだけだ、邪魔されなければ…」

『ほう…結局破壊を選ぶか…それは愚策だ』

 YAMAがニタッと笑った気がした。


「耳がキーンとするよね」

 扉の向こうにナミが立っていた。

 迷い迷い…辿り着いたのだ。

 この忙しい時に…。

 杖を引きずり…ちょっとかじったサンドイッチを片手に持って。

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